渾身のガッツポーズだった。23日に敵地ZOZOマリンで行われたロッテ戦。ホークスの先発マウンドに上がった有原航平投手は、最後の打者のポランコを空振り三振に切って取ると、力強く拳を握った。今季初完投。ロッテ打線をソロ2本の2失点に抑え、「めちゃくちゃエグい球を投げていた」という佐々木朗希投手との投げ合いを制した。
初回をわずか10球で3者凡退とリズムよく立ち上がると、4回まで1人の走者も出さないパーフェクトピッチング。2点リードの5回に抜けたスライダーを山口に左翼スタンドへ運ばれ、7回にはポランコに右翼スタンドへのソロを浴びたものの、8回までに許した安打はこの2本だけ。わずか92球という球数の少なさで、8回を投げ終えた。
ベンチへ戻ると、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から「任せた」と最終回も託された。「やってやるぞっていう気持ちになりました」。気合い十分に9回のマウンドへ。2死から藤岡に安打を浴びたものの、最後はポランコのバットに空を切らせた。首脳陣の期待に応え、感情が溢れ出た。
決して状態が良いわけではなかったが、その日その日の状態に合わせて投球を組み立てられるのも“宝石”と称される有原の強みだ。走りが良ければ、150キロ台中盤まで出る真っすぐが、この日の立ち上がりは140キロ台中盤から後半で推移していた。
「真っすぐがそんなに走っていなかった」。状態がイマイチだと察知すると、マスクを被った甲斐拓也捕手とも話し合い、それに合わせたスタイルにチェンジ。力いっぱいにボールを投げるのではなく、出力を抑え、コントロール重視の投球に切り替えた。
「スピードよりコントロールだと今日は思ったんで。今日のボールではこっちの方がいいなって感じたのでそうしました。拓也と話し合って、拓也もうまくリードしてくれたなと思います」
4月9日の日本ハム戦で初回に4失点を喫した。同16日の同戦では3回に3ランを浴びるなど、計4失点。前々回、前回の登板の反省も生かした。「丁寧にコントロールを意識してというか、力いっぱい行って打たれることがこの前もあったので、今日は本当に丁寧にコントロールを意識して試合に入りました」。
相手は160キロを超える真っすぐを投げる佐々木朗。自然と力が入ってしまいそうなものだが、真逆のピッチングを徹底した。それは投球データにも表れる。セイバーメトリクスなどで分析を行う株式会社DELTAのデータを参照すると、投じた107球のうち、真っすぐの割合はわずか16.8%。ソフトバンク移籍後、21回の登板の中で最も少ない割合だった。
この日最も多かったのがスプリットで21.5%。カットボールとチェンジアップもそれぞれ20.6%を記録し、真っすぐの割合を上回った。これにカーブ、スライダー、ツーシームも交えて、8割以上を変化球が占めた。ストレートの最速は150キロ。150キロを超える真っすぐは1球しかなかったが、変幻自在の投球でロッテ打線を手玉に取った。
前々回、前回と7回を投げながらも負け投手となっていただけに「僕自身、いいところに投げさせてもらってるので、2連敗やっぱチームの流れを持ってくれてなかったのでそういう意味では今日勝てたのは本当にいい1勝になったかなっていうのはあります」と安堵した。ロッテ戦はこれで自身9連勝。1週間の頭を託されている責任もある。チームにとって、有原自身にとって大きな白星となった。