栗原陵矢が悔やんだ甲斐野央との対戦 復調のキッカケはコーチとこもったミラールーム

ソフトバンク・栗原陵矢【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・栗原陵矢【写真:荒川祐史】

「自分が上手く勝負できていなかった、自分の形ばかりを気にしてしまっていた」

 ようやくトンネルから抜け出した。ソフトバンクの栗原陵矢外野手に当たりが戻ってきた。4月14日に行われた西武戦(ベルーナドーム)で21打席ぶりの安打を放つと、今季初のマルチ安打も記録。さらに16日、17日の日本ハム戦(エスコンフィールド)でも2安打ずつ打ち、19日のオリックス戦でも2安打。4試合連続のマルチ安打で一時は.089まで落ち込んだ打率も.197まで戻ってきた。

 復調のキッカケがあった。14日の西武戦前のことだ。各選手がグラウンドに出てきて、各自でウォーミングアップを始めた頃、栗原の姿はベンチ裏のミラールームにあった。村松有人1軍打撃コーチと2人で部屋にこもって、フォームを確認していた。

 村松コーチは「(シリーズMVPを獲得した)2020年の日本シリーズで菅野からホームランを打ったときの映像とかを、僕らもちょっと見返したら、全然違うバット軌道というか、そういうのがあった」という。長打になりやすい“バレルゾーン”で打球を打ち出すスイングにより、栗原本人の感覚にズレが生じていたようで「本人も捉えたと思っても、ファウルだったり、ボテボテだったり、ボールは見えているんですけど、感覚の違いというか、そこの差がなんでかなってずっと迷いながらやっていた」と村松コーチは明かす。

 ベルーナドームのミラールームで、村松コーチは栗原に助言を送った。「もう1回、原点に戻って、レベルスイングなんですけど、動作的にもイメージ的にも、上からぐらいのスイングを入れていくのもいいのかなっていう話をしました」。14日の試合、6回に迎えた第3打席。2球目の高めの真っ直ぐをファウルにした時に栗原は思った。「だいぶ(タイミングが)遅れてるな」。結果を欲しがるあまり、心理的にピッチャーと勝負できておらず、自分が立ち遅れているのを感じた。ようやく投手との勝負に意識が向くようになり、4球目の直球をとらえて中前へ運んだ。

 悔やむ出来事もあった。まだトンネルから抜け出せていなかった12日の試合。楽しみにしていた親友との初対決が実現していた。山川穂高内野手のFAでの加入に伴う人的補償で西武に移籍した甲斐野央投手は同級生でプライベートでも仲の良かった親友。甲斐野の移籍が決まった直後、2人は電話で「絶対に打つなよ」「絶対に打席で変顔とかしてふざけんなよ」「ランナーで出たらめっちゃ笑かしてやるわ」と言い合っていた。

 開幕12試合目にして実現した「栗原対甲斐野」の対戦。ホークスが逆転し、なおも8回2死二、三塁の場面。ただ、変顔をするどころか、栗原はその勝負に入り込むことができなかった。この日も3打席目まで2三振1四球でヒットはなく、気持ちは陰鬱としていた。

「なんかうまくピッチャーと対戦できてなかったというのもあります。どうしても打ちたかったですけど、甲斐野だからっていうよりも、自分が上手く勝負できていなかった、自分の形ばかりを気にしてしまっていたのはあるかなと思います」。見逃し三振に倒れた結果ももちろんだが、不振によりベクトルが自分に向くがあまり、親友との勝負に集中することができなかったことも悔しかった。

 初対戦には一歩遅かったが、ようやく復調の気配が漂ってきた。西武とは27日から本拠地PayPayドームで再び対戦する。次こそは甲斐野と熱い勝負ができるはずだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)