急かされ続けた「名古屋来ないの?」 複雑だった母の連絡…西尾歩真の4月6日

ソフトバンク・西尾歩真【写真:竹村岳】
ソフトバンク・西尾歩真【写真:竹村岳】

4月6日の中日戦は地元の三重県で開催…3打数2安打で「打ててよかった」

 立派に戦う姿を、地元で見せることができた。ソフトバンクの西尾歩真内野手が、4月から2軍に合流した。ウエスタン・リーグでは7試合に出場して打率.308と結果を残している。嬉しい出来事となったのが、4月6日、同リーグの中日戦。地元でもある三重県四日市市で行われた試合に出場できたことだった。母・知美さんが観戦した中で、3打数2安打。そこに至るまでの紆余曲折に迫った。

「2番・二塁」でスタメン出場すると、初回の第1打席は三ゴロ。3回2死一塁では左前打を放ち、6回無死からは初球を右前に運んだ。相手は、昨年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表にも選出されていた高橋宏斗投手。チームは0-1で敗れたものの「“侍ジャパン”から打ちましたよ。めっちゃ速かったです」とニッコリ笑顔で振り返る。

 2月の春季キャンプも筑後のC組からスタート。途中から宮崎のB組に合流したものの、キャンプインからA組に選ばれていた仲田慶介内野手、川村友斗外野手、緒方理貢外野手らもいたのだから、焦りもあったはずだ。もちろん自分自身のために頑張っている中で、4月6日、地元への“凱旋”も1つの目標に掲げていた。なぜ、西尾にとって絶好のタイミングで3軍から2軍へ昇格することになったのか。

「普通に、3軍の金子(圭輔内野守備走塁)コーチに『次から2軍に行って来い』と言われました。所属は3軍で参加という形ではあると思うんですけど、それでまだいる感じです。いつ下に行ってこいと言われるかわからないですし、参加と言われたのでどこかで代えられるかもしれないですけど。自分が結果を出せばいい話なので」

 3月末は3軍の関西遠征に参加し、宮崎での4軍戦に移動。そこからチームは大分に移動する中で西尾だけが昇格を掴み、福岡に戻ってきた。2軍の名古屋遠征の直前で、待望の昇格。「(四日市で試合があることは)わかっていました。その週の火曜日から2軍に行ってこいと言われたので『名古屋いけるわ』って思って」。実際にプレーした球場と実家は、車で1時間ほど離れているそうだが、三重県でプレーできたことには大きな意味を感じた。

 実は母の知美さんからは“急かされていた”という。「何回か『名古屋こないの?』っていうのは言われていました。『来うへんの?』みたいな(笑)。お母さんも、自分が3軍だったので来られないと思っていたと思う。多分行かへんかなって言っていたら、急に2軍が決まったので。そこで出させてもらって、打てたのでよかったです」。名古屋に来ないのか、と問われるのは、選手目線で言えば「2軍には上がらないのか」と聞かれるのと同じ。「ちょっと複雑でしたけどね」と今だから胸中を明かせる。

ソフトバンク・西尾歩真【写真:竹村岳】
ソフトバンク・西尾歩真【写真:竹村岳】

 2軍に昇格した3月末、母にLINEで報告をした。「『名古屋遠征行くわ』『じゃあ土曜日見にいくわ』って」。昨シーズン中も、三重からタマスタ筑後にまで観戦に訪れていた知美さん。トーク画面越しのリアクションも「普通に『そうなん』って、軽い感じでしたけど、絶対喜んでいたと思います」と、容易にイメージはできた。試合後には食事に誘ったそうだが「『家帰るから無理』って言われました。せっかく誘ったのに(笑)」と断られてしまうところからも“西尾家”の関係性が伝わってくる。

「大学の時はお母さんはよく見にきてくれていて、いつもバッティングの動画を撮ってくれていたんです。それを見て反省したりしていたんで。今なら球団のがあるんですけど、また撮って送ってくれました。そういうやり取りはありました。でも人が多くて、通路のちょうど後ろで見ていたんです。そしたら、人がめっちゃ映っていて全然(僕の打席は)見えなかったです(笑)」

 ファームの非公式戦では24試合に出場して打率.282と一定の成績を残した。課題である打撃面も「トップの位置を低くして、よりボールのラインに入れられるように。タイミングも早く取って、色々とやっています」と、打席数を多く得たからこそ収穫がたくさんあった。昨シーズンはウエスタン・リーグで70試合に出場したが盗塁0で、失敗が4個。今季の非公式戦ではチームトップの12盗塁を記録し「3軍におる時間もよかったですね。2軍では結果を出すのに必死なので」と語る表情から、自信が伝わってきた。

 3月19日には仲田、川村、緒方らが支配下登録された。西尾も「『いいな』って思いました。やっぱり羨ましいです」と1軍で戦う3人を見つめる。「とりあえず2軍でやらないといけないので、頑張ります。2軍の試合は(育成選手は)5人しか出られない。結果を出し続けて、チャンスと掴めるように」。頑張らないといけない理由が1つ増えた。西尾歩真の2年目に、ぜひ注目していてほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)