開幕ローテーションを掴めず…鷹フルに語った近況は「発見の毎日です」
苦しかった時期から、少しずつ顔は前を向くようになってきた。同級生との会話で、噛み締めるべき“幸せ”を見つけたからだ。ソフトバンクの板東湧梧投手は開幕ローテーションから漏れ、ファームで調整を続けている。鷹フルの単独取材に「今は前を向いていますし、発見の毎日です」と現状を明かした。きっかけとなったのは、椎野新3軍打撃投手兼3軍スタッフとのやり取りだった。
2023年は5勝を挙げたが、目標に掲げていた開幕ローテには入れず。今年こそは、と挑んだシーズンだった。オープン戦では3試合、8イニングを投げて無失点だったものの「結果は良かったんですけど、自分の中で納得のいく試合は1試合もなくて、このままでは厳しいと思っていました」。結果と感覚は比例していなかった。ウエスタン・リーグでの直近の登板は11日のオリックス戦(タマスタ筑後)で、7回無失点。「あの日は、内容はよかったですけど、まだ発展途上ですね」と足元を見つめる日々だ。
椎野打撃投手との会話は今月5日。ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」の室内練習場だった。練習を終えた板東が引き上げようとすると、椎野打撃投手と顔を合わせて、会話が始まった。思うようにいかない今だからこそ、球友の言葉が心に響いた。
「新(あらた)もテンションは明るかったですけど、育成の選手も含めて、僕も含め『もがいている選手だとしても今やれていることは、終わったらわかるけどめちゃくちゃ幸せだよ』って話をしました」
他愛もない話から、少しずつ熱がこもっていった。「全然あかんわ、って話からだったと思います」と、いつも通りのコミュニケーションで声をかけたつもりだった。「『今やれていることが幸せ』だというのは感じましたし、今頑張らないと一生後悔するだろうなっていうのは話をしていて思いました」。途中からは2人とも座り込み、今の胸中をぶつけ合う。椎野打撃投手の言葉から、プロ野球選手は尊い存在なんだと改めて学んだ。
「確かにな、って思いました。僕も怪我をした時期とかありましたけど、それよりも引退したらもうできないわけじゃないですか。やりたくてもできない(世界)だという中で、今できているのは幸せだなって。あまり引退した人にそういう話を聞いたこともなかったんですけど、新っていう近い存在がその話をしてくれて、改めて感じたことがありました」
厳しい勝負の世界。必要とされなければ、ユニホームを脱ぐしかない。椎野打撃投手も、昨オフに戦力外通告を受けてスタッフに転身した。現役生活がどれだけ幸せなのか、全力で駆け抜けた椎野打撃投手だからこそわかる。今は苦しいかもしれないが、大切な球友である板東にも、ユニホームを着ていられることがどういうことなのか、気づいてほしかった。
プライベートでも親交がある板東と椎野打撃投手。選手同士から、選手とスタッフという関係性になったが「新は新です。相変わらずいいやつです」と笑顔で語る。打撃投手とは、繊細なコントロールと力感を求められる仕事で、イップスになる人も珍しくない。椎野打撃投手の言葉にも板東は耳を傾けて「僕からアドバイスできることもないんですけど、彼も彼で悩んでいるみたいです。『苦しいよな、わかるわ』っていう話はしています」と、お互いに支え合っている。
大切な元同僚の存在も、背筋を伸ばしてくれる。巨人にトレードで移籍した高橋礼投手は、2勝を挙げて防御率0.47。泉圭輔投手も、4月12日の広島戦で移籍後、初勝利を手に入れた。同級生の高橋礼、同期入団の泉の活躍に「この世界、結果が全て。ああやって1軍で結果を残している選手を見るともどかしさはありますし、負けたくないなって気持ちにはなります」と、今の自分に刺激を与えてくれている。苦しい現状の中でも、頑張りたいと思える理由がたくさんある。
なかなか思うようにいかなかった3月を「難しいですけど、苦しい時期ではありました」と振り返る。「一喜一憂しちゃいけないいんですけど、いろんな発見はあります。自分に対して向き合える時間というか、そういう喜びはあると思いながらやっています」と近況を語った。今という瞬間を、何よりも大切にする。板東湧梧の力が1軍を救う時が、必ず来る。
(竹村岳 / Gaku Takemura)