小久保監督も絶賛の勝負強さ「さすが」 今季初スタメン…中村晃が語った胸の内

西武戦に出場したソフトバンク・中村晃【写真:小池義弘】
西武戦に出場したソフトバンク・中村晃【写真:小池義弘】

甲斐野との対戦に「そこは勝負なんで切り離していけた」

 執念が乗り移った打球だった。ソフトバンクは12日、敵地・ベルーナドームで行われた西武戦に2-1で逆転勝ちした。1点を追う8回、柳田悠岐外野手の適時二塁打で同点に追いつくと、なおも2死一、二塁のチャンスで決勝の一打を放ったのは、この日、今季初スタメンで起用された中村晃外野手だった。

 西武先発の今井の前に、打線は苦戦を強いられた。7回まで4安打で“ゼロ行進”を続けると、6回まで無安打投球を続けていた先発の東浜巨投手が7回に初安打を浴びたことがきっかけに、先制点を奪われた。千載一遇のチャンスが巡ってきたのはその直後の8回の攻撃。昨季までチームメートだった甲斐野央投手をつかまえた。

 先頭の周東佑京内野手が二塁への内野安打で出塁すると、今宮健太内野手の犠打で得点圏へ周東を進めた。柳田は甲斐野の浮いたボールを逃さず左中間への適時二塁打。これで同点に追いつくと、近藤健介外野手の申告敬遠を挟み、中村晃が打席に立った。

「勝負所だったので代打っぽくいくイメージでいきました」。今季はここまで出場した5試合全てが代打での途中出場だった。集中力を研ぎ澄まし、一振りにかける意識で打席に立ったという。1ボールからの2球目、外角へのツーシームを捉えると、打球は一塁手アギラーのミットの僅かに先を抜けた。代走の川村友斗外野手が一気に本塁へ。送球が一塁側に逸れ、わずかに早く川村の手がホームに触れた。

「ヒットが出ていなかったですし、しかも勝負所だったので打ててよかったと思います」。試合後の冷静な口ぶりとは対照的に、二塁ベース上では感情を爆発させた。リクエストによるリプレー検証の結果、セーフの判定通りとなると、拳を握りしめてガッツポーズを決めた。“男・中村晃”の思いがそこに滲んでいた。

 並々ならぬ思いを抱えていた一戦だった。今季はここまで全試合でベンチスタート。12試合目にして初めてのスタメンだった。小久保裕紀監督は「山川もずっと出っぱなしで守りっぱなしだったので、そういうのも諸々含めて」と語り、山川穂高内野手を休養も兼ねてDHで起用するための措置だった。それでも中村晃にとっては大きなチャンスだった。

「せっかくチャンスをいただいたので、結果を出せたらいいと思っていましたし、何よりも勝ちたいなと思っていました」。第1打席で二直に倒れると、第2打席は四球、第3打席は遊ゴロと3打席目まで快音は響かなかった。スタメン起用に応えたい、なによりチームの勝利に貢献したい。溢れ出る感情をぶつけた第4打席の一打だった。

 決勝打を打ったのは、去年までチームメートだった甲斐野からだった。試合前の練習中にも言葉を交わしていた。「良いピッチャーなんで集中していきました。試合前も話しましたけど、そこは勝負なんで切り離していけたかなと思います」。マウンドと打席で対峙すれば、そこに“情”は不要。集中力を研ぎ澄まして一振りに魂を込めた。

 小久保監督も「今シーズン初スタメンでね、さすがです!」と絶賛した、中村晃の働き。山川が一塁に戻れば、また代打起用が中心になるだろう。ただ、どんな状況でも頼りになるのは変わらない。中村晃は今日もその一振りに全てをかける。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)