2023年は15試合に出場してプロ初本塁打も…OP戦で見失った自分だけの形とは
思い知ったのは力のなさと、先輩たちとの明確な“差”だった。ソフトバンクはオープン戦を戦い、10勝5敗2分け。中日と並んで勝率1位で終わった。チームが上位を走った中で、打率.080に沈んだのが高卒4年目の井上朋也内野手だった。「情けない……」。競争の中で抱いていだ胸中、感じた先輩のすごさなどを激白した。
2020年のドラフト会議で1位指名を受けて、花咲徳栄高から入団した。2022年の8月には腰の手術を受けるなど、怪我とも戦いながら迎えた昨シーズン。1軍で15試合に出場して打率.263、1本塁打、3打点ときっかけを掴んだ。オフには小久保裕紀監督が1軍監督に就任し、レギュラーと明言したのは柳田悠岐外野手と近藤健介外野手だけ。栗原陵矢内野手と、真っ向勝負で三塁を争うつもりだった。
しかし、オープン戦に入っても結果はついてこない。小久保監督が「本番モード」と位置付けた19日の阪神戦(PayPayドーム)以降の5試合では、三塁の先発は全て栗原。井上も2試合の出場、2打席しかもらうことはできず、打率.080でフィニッシュした。オープン戦を振り返り「シンプルに、ズレていました」と語り出す。
井上が「思うようなスイングができず、思うようなタイミングが取れていないから結果が伴わない」と要因に感じていたのは技術面。バットの芯の部分が先に出てくるようなスイングになっていたようで、インサイドアウトの形が取れていなかった。「対応ができない状態だったので、この結果は当たり前かなと思います」と真っ直ぐに受け止める。焦りと力みは自然とフォームにも表れて、技術的にも自分を結果から遠ざけてしまっていた。
「はじめは良かったんですけど、もっと(スイングを)良くしようと考えていたりとか、やっぱりアピールしないといけない立場なので。力が入って、どんどん自分の中で力むようになって、体が内側に“締まっていない”感じになって、それでズレていった感じです」
春季キャンプは初日からA組に選ばれた。野村勇内野手はキャンプの途中で離脱、リチャード内野手もB組でキャンプを終えただけに、三塁の競争は栗原との“一騎打ち”だったはずだ。競争の渦中にいた心境を「焦りというか、情けないって感じです……」と表現する。「去年、ある程度自分の軸みたいなものを確立できたと思ったんですけど、これくらいで崩れちゃうものなんだなって思いました」と、思い知るような期間になった。
プロ野球のシーズンは長い。自分の形が崩れた時、不調をどれだけ短くできるかも大切な要素の1つだ。井上も「近藤さんみたいな自分の軸を作っていかないと生き残っていけない。小久保さんも『どうしようもない時はこれをする』っていうのがあったらしいので、そういうのを早く見つけていけたら」。15試合ながら、昨季に1軍の経験をしたことで見えた道筋がたくさんあった。オープン戦では柳田悠岐外野手も、山川穂高内野手も、近藤も打率3割以上で終えた。開幕に向けて調子を上げる先輩たちの姿に、凄みを感じた。
「レギュラー陣はやっぱりすごかったです。開幕が近づくにつれて状態もしっかり上げていたし、そこはやっぱり“経験の差”があるのかなって思いました。レギュラー陣と、自分も含めた若手を比べたら、1打席で一喜一憂していない。全くしないことはないと思いますけど、一喜一憂せずに取り組んでいたので、勉強になりました」
今月23日の広島戦(PayPayドーム)でも、試合前の打撃練習を終えた後だった。村上隆行打撃コーチと村松有人打撃コーチに見守られながら、ティー打撃を繰り返していた。「(オープン戦の)数字はもう、気にしていないことはないですけど、取り返しのつかない数字だった。そこからは気にしていなかったです」と、自分も一喜一憂せずに目の前に集中するようにもなっていた。「大丈夫です。(自分の形は)練習していたら見つかると思いますから」と前だけを見る井上の力が、どこかで必ず必要になる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)