懸命でひたむきな姿に刺激を受けた。どん底から這いあがろうとする姿だから、感じるものがあった。ソフトバンクは1日、宮崎の生目の杜運動公園で春季キャンプをスタートさせた。ホークスに加入して3年目を迎える又吉克樹投手も「普段の態度も含めて『ああいう人になりたい』と思ってもらえるように。そんなことを感じた11月から1月でしたね」。そう背筋を伸ばすのは、育成選手の気持ちから受け取ったものがあったからだ。
2023年は32試合に登板して2勝2敗、10ホールド、防御率2.25の成績だった。開幕1軍には入ったものの、夏場に再び1軍昇格するまでは約3か月のファーム生活を送っていた。自分の立ち位置を踏まえて、今のキャンプは「今からは競争なので、自主トレとは違ったピリつき感はあります。開幕が確定と言われているのは表に名前が出ている人だけ」と語る。通算463登板と、ブルペンの中でも実績は十分。開幕までの逆算ももちろんだが、まずは競争を勝ち抜くつもりで球春を迎えた。
又吉は昨年12月から今年の1月にかけて、主にファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で自主トレを行っていた。2022年7月にも右足首を骨折してリハビリとなっただけに、筑後で若手とともに過ごす時間はこれまでもあった。さまざまな方向にアンテナを張って練習をする中で、若手の中で印象に残ったのが、山本恵大外野手と三代祥貴内野手だった。実績は関係なく、ひたむきな姿こそが大切だと、改めて感じさせられた。
「あいつらは真面目でしたよ。本当に真面目ですし、丁寧でした。野球に対して“スレていない”というか、“もういいや”って感じでは過ごしていなかったですね」
山本は右投げ左打ちで、今季が3年目の外野手だ。昨年9月に左膝を手術し、今もリハビリ生活を送っている。三代は右投げ右打ちで、高卒3年目。足を痛めており、一歩ずつ復帰の段階を踏んでいるところ。「僕が怪我した時もずっといた2人。この2人にイジられながら、トレーニングしながら、自分も『さっさと治せよ』とも言いつつ」と、若い2人から又吉にも寄り添ってきてくれる。過去と比べても「明らかに体がデカくなっていた。やれる範囲ですごく頑張っていたんだろうな」。目に見える変化もあっただけに「そういう人たちに恥じないように頑張らないといけない」と決意は新たになった。
「自分の中でも思うところはありました。どうにか自分(自分自身のリハビリや調整も)でクリアしつつ、育成やリハビリの選手が腐らずにやっている姿を、間近で見る時間が多かったので、今回のオフは特に。なかなかギリギリまで若い子たちと一緒にやることも、今までなかったですし。1日1日『どうかな』って感じながらやっている選手を見て、普通にできるのは当たり前じゃない。キャンプでもそうですし、普段の態度も含めて『ああいう人になりたい』と思ってもらえるような、野球に対する態度を見せていきたいと思いました。そんなことを感じた11月から1月でしたね」
中日時代にも当然、ファームで過ごした時間はある。腐らずにいられたのも、誰よりも先輩たちが自分と向き合っていたからだ。「浅尾さん、岩瀬さん、山本昌さん、森野さんもいましたし。そういう人たちを見て育っている。(当時の先輩は)黙々と腐ることなくやっていて、僕はそれしか見ていない」と、次々とレジェンドたちの名前を挙げる。「そういう人に学んだことは自分がやるべき。一番上の自分が『もういいや』とかはできない」と、2022年に骨折した時も語っていた。栄光ばかりを味わってきたわけではない。挫折も知っている又吉だから、育成の選手たちの姿が目に止まった。
「気持ちが折れないで野球ができているのは、彼らの人間性の強さ。若い子でもこういうことができるんですから、練習に手を抜くわけでもないですし。そういうところは見習って『又吉さんでもああいうことやるんだ』と見せられたら。結果、それが自分にプラスになって返ってくると思いますから。その2人は、今でも(自分を)イジってきますけどね(笑)」
小久保裕紀監督が開幕に向けて調整してほしいと明言しているのは、リリーフだとロベルト・オスナ投手、藤井皓哉投手、松本裕樹投手の3人。競争を勝ち抜く上で又吉は「ずっと言っていますけど、僕の場合は便利屋ですよね。一番は『こいつ結構投げたけど、タイトルとか関係ないね』っていうのが理想」と自分だけの持ち味を表現する。まさに縁の下の力持ちであることが、選手としての理想像だ。このキャンプでも「2イニング、3イニング、それ以上のイニングもこなせるように、ブルペンに入る」とイメージしている。又吉だから、できる仕事。その姿を、後輩たちにも見ていてほしい。
2014年にプロ入りして、11年目を迎えた。中日時代を含めても主要タイトルを獲得したことはないが「もともと関係のない人間。それでなんでやってこられたのかというと、なんでもできることが評価されているところだと思う。取れるなら取りたいですけど、そこじゃないだろ、とも思います」と胸を張る。「それができないと生き残れない」という表情からは、プロとしての経験と、プライドが伝わってきた。