選手にとってオフシーズンは、来季に向けてトレーニングする時期でもあり、少しだけ羽を伸ばして休む時期でもある。シーズン中なら試合の結果が全てだが、オフは広報にとっても選手を売り出し、プッシュしていくタイミングだ。1軍管轄の西田哲朗広報は12月の過ごし方について「仕事がほとんどですよ」と苦笑いする。オフの選手取材を見守る中で、特に印象に残っているというのが大津亮介投手と、周東佑京内野手だ。
大津はアマチュア時代にも全国大会を経験はしているものの、決して目立った成績を残してきたわけではない。“取材慣れ”しているかどうかは西田広報もしっかりと見守っていた点だといい「ふわっとしているかなと思っていました」と語る。1年目から46試合に登板して2勝0敗、防御率2.43。広報にとっても、今売り出していきたい選手の1人だ。テレビ出演や紙媒体のインタビューに西田広報も立ち会い、大津の姿を見てきた中で、一変した印象を明かした。
「大津もルーキーであれだけ頑張って注目度も高かった。インタビューもめちゃくちゃ多かったんです。こっちが推しているのもあるんですけど、トップレベルでした。人前で、テレビの前で話すことで勉強にもなりますから。大津ってふわっとしていると思っていたら、いざ話す時になったら結構話せるんやなって思いました。シーズン中は、ラフな感じでインタビュー受けるのかなと思っていたんですけど、しっかりしていますよ」
テレビ番組の生放送は、西田広報にとっても「発言の失敗は許されない」と、緊張感が高まる依頼でもある。媒体によっての取材の趣旨や、実現したい企画がある。西田広報は大津について「しっかりと考えて、キーワードを掴んで話してくれる感じはあります」と、メディア側の狙いまで理解して、言葉のチョイスができているという。社会人卒の24歳とはいえ、アマチュアとプロ野球なら露出も比べものにならない。マウンドの上ではもちろん、取材対応を見ていても偏差値の高さを感じ取っている。
「簡単に言えば、ヒーローインタビューで話している感じが生出演だと思ってもらえたら。恥ずかしいことは許されないので、あれは全て映像が回っていますから」
西田広報は大津との関係性についても「よくしゃべりますよ」という。チームとして活動していれば、必然的に1軍にいる選手全員を見守ることになるが、選手がバラバラになるオフシーズンは広報にとっても1対1の時間が増える時期だ。「色々(大津の方から)相談してくれる。『こういう時はどう話したらいいですか』って。この期間は生出演も多いですし、若い選手はレクチャーをしないといけない」というが、広報の考えを理解してくれようとしてくれるから、大津は手がかからないそう。そんな一面を見ても、1人の立派な大人だ。
とある番組の生出演、球団OBの攝津正さんと共演したという。攝津さんといえば、ルーキーイヤーの2009年に70試合に登板して新人王を獲得。3年目から先発に転向し、2012年には沢村賞にも輝いた大先輩だ。大津も来年は先発転向と、攝津さんと同じ道をたどる。2人が話す姿を見ていた西田広報も、感心しながら振り返る。
「攝津さんに質問をしていたんですけど、その質問も的確でした。中継ぎから先発に転向するにあたって、オフの過ごし方について、どういうふうにしたらいいですかっていうものだったんですけど。そういうところも、攝津さんへのリスペクトもあるし、いい質問ができているのかなって思いました」
柳田悠岐外野手なら、自分を飾ることなく、端的な言葉でファンの心を惹きつける。メディア前での発言は、選手の個性が出るタイミングだ。大津について西田広報は「ハートが強いのかな。物怖じしないですよね。そこまで(アマチュア時代は)大注目されてきたわけではないかもしれないですけど、出演に対して緊張を見せないです」という。大津自身も「負けず嫌い」と胸を張る性格が、言葉の節々にも表れているようだ。
そしてもう1人、西田広報が名前を挙げたのが周東だ。12月の上旬から2週間、米国に渡って単身でトレーニングを重ねてきた。海外にいると、さすがに広報としてもメディア露出をしたくてもできない。「『アメリカに行くので11月中にできるだけやります』という言い方をしてくれる。帰ってからも、明日(24日)もクリスマスで家族の予定もあるんですけど、アメリカに行っていた期間の分も取り戻すじゃないですけど、それが野球選手の宿命というか」と周東の姿勢を代弁する。
24日も、日曜日にも関わらずラジオの公開収録の出演に応じてくれた。11月、渡米することが決まっていた周東は西田広報に「その代わり、こっちのタイミングでいっぱい受けます」と発言し、まさに今は約束を守ってくれている。「オフはファンサービスするという考えがあるから出てくれるのかな」と西田広報の感謝も尽きない。来季からは選手会長となるだけに露出ももっと増えるはず。スターへの階段を駆けあがろうとしている2人の姿を、西田広報が一番近くで見守っている。