ソフトバンクは23日、都内のロキテクノ本社で澤柳と仮契約を結んだ。最速151キロを誇り、2022年には「侍ジャパン」U-23代表にも選ばれていた即戦力の右腕だが、全国的にはそこまで知られた存在ではなく、球団スカウトが“掘り出し物”と評するほどだ。
明治学院東村山高から明治学院大へと進み、首都大学リーグでは2部でプレー。通算35試合に登板したものの、全くの無名の存在だった。大学卒業後も野球を続けるため、大学3年時から社会人チームに直接、電話をかけたりメールを送り、自ら売り込みをかけた。返信さえなかったチームもある中で、興味を示してくれたロキテクノ富山へ入社。2年間で世代別の「侍ジャパン」にまで選ばれるようになった。
そんな澤柳をホークス入りに導いた“運命の日”があった。9月30日に楽天のファーム本拠地「ウェルファムフーズ森林どりスタジアム泉」で行われたロキテクノ富山と楽天2軍との練習試合。この日の投球が、ホークス球団内での澤柳の評価を急上昇させた。
福山龍太郎アマスカウトチーフはこう明かす。
「来年から先発に回るのを見越して、彼が長いイニングを投げたんです。そこで初めて彼の投げるカーブを見ました」
2022年にロキテクノ入りした澤柳はリリーフとして起用されており、今年も主にクローザーを任されていた。元ソフトバンクの細川亨コーチの教えもあって、クローザーの時に投げていたのは、真っ直ぐとカットボールの2球種だけ。球種の中にカーブはあったものの、ほとんど使わず、スカウト陣も見たことがなかった。
ところが、だ。プロからの指名がなく社会人3年目となる2024年に向けて投げたカーブが澤柳の運命を変えた。この日の投球データを球団の分析チームが解析したところ、とんでもない数値が分かったのだ。澤柳のカーブは60センチ以上の落差を誇り、真っ直ぐの50センチのホップ成分との差は1メートル超え。これはホークスの最強セットアッパーであるリバン・モイネロ投手の直球とカーブに匹敵するものだと判明したのだ。
「あの日のカーブを見ていなかったら、こうなっていなかったかもしれないですね」
今年のドラフト会議が行われたのは10月26日。ドラフトまで、あと1か月を切っていたタイミングでの投球で評価が一気に高まり、支配下の5位指名に滑り込ませることになった。この試合をスカウト陣が見ていなければ、カーブを投げなければ、「ホークス澤柳」は誕生していなかったかもしれない。
「契約を終えてプロ野球選手としての自覚も大きくなり、ソフトバンクホークスに自分なりに恩返しできたら、という強い気持ちが生まれました」。仮契約を終えて、こう口にした澤柳。不思議な導きによってホークスと結ばれた男が大活躍すれば、それもまたロマン溢れるドラマとなる。