小久保裕紀新監督が就任し、4年ぶりのV奪回のかかる2024年に向けて動き出している新生ホークス。秋季キャンプは宮崎で野手陣が、ファーム施設の「HAWKS ベースボールパーク筑後」で投手陣が、それぞれ個々の課題に向き合って練習に励み、新たな体制となったコーチ陣もそれに目を光らせている。
このオフ、チーム全体の底上げは急務となっている。特に野手は柳田悠岐外野手をはじめ、中村晃外野手や今宮健太内野手、甲斐拓也捕手、近藤健介外野手らレギュラー陣が軒並み30歳を超えている。20代前半で主力に定着している選手はおらず、若手の台頭が求められている。
その中でも、来季の起用についてファンの関心が高いのは捕手だろう。そこで、小久保新監督のもと、今季まで2軍でバッテリーコーチを務め、来季から1軍バッテリーコーチとなる高谷裕亮コーチに現時点での捕手起用のプランを聞いた。
「拓也も来年32歳かな? 拓也を脅かすではなくて、本当に超えるぐらいの選手が出てこないと、チームにとっても良くないでしょうし、拓也にとっても刺激がない。『まだまだ負けないぞ』という気持ちになってもらいたいんで、そこは全員がレベルアップしないといけない」
今季は正捕手の甲斐が全143試合のうち130試合でスタメンマスクを被り、嶺井博希捕手が9試合、谷川原健太捕手が4試合。捕手の出場試合数で見ると、甲斐は12球団で最も多く、次に巨人の大城卓三捕手の125試合と続く。パ・リーグで甲斐の次に多かったのは、西武の古賀悠斗捕手でスタメンは90試合だった。
パ・リーグを3年連続で制したオリックスは若月健矢捕手の83試合が最も多く、110試合に出場した森友哉捕手は捕手でのスタメンは56試合だけ。甲斐が絶対的な存在だったとも言えるが、捕手は肉体的にも精神的にも過酷なポジションで、複数人による“捕手併用”は球界の主流となっている。
捕手の大変さは十二分に理解している。2006年に大学生・社会人ドラフト3巡目でプロ入りした高谷コーチは2015年に93試合、2017年に92試合に出場。「90試合でもやっぱりキツかったですから」という経験を基に、一般論として「(1人がマスクを被り続けると)キツいのはキツいと思います。143試合プラスでポストシーズンがあったら、正直、体力的にも、頭の面でもだいぶキツいと思います」と語る。
捕手は常にアップデートされるデータ、情報を頭に叩き込んで、毎日のように続く試合に臨まなければいけない。その量は昔に比べれば膨大だ。相手も対策を練り、日々、手を変え品を変えの“騙し合い”“化かし合い”の連続。高谷コーチは「打たれ出したりすると『こうしちゃいけない』とか『こうなったらどうしよう』ってのが先に行ってしまうことが僕もありました。その辺の割り切り方というか、難しさは正直あるかもしれないです」という。
その過酷さを知る中で、来季の捕手起用についてどう考えるのか。「僕の中で(考え)はあります。でも、そこには小久保監督の考えもあるので」と前置きし、個人的な意見とした上で、捕手の併用は「理想は理想としてある」という。ただ、1軍は勝つことが全て。「1軍って勝つためにやるので、どういう風にうまく入れながらいけるかっていうのもある」との考えも明かす。
常に勝利が求められるホークスで、勝ちながら育てるというのはなかなかに難題だ。その中で、どれだけ若い選手にチャンスを与えるかは悩ましいはず。高谷コーチは「あくまで僕の個人的な考えとしては、そのために僕らコーチがいると思っています」と語る。
経験の浅い捕手をスタメンで送り出すのは、少なからずリスクが伴い、首脳陣としても覚悟のいることだ。ただ、そこは、首脳陣が責任を負うべき、と高谷コーチは考える。「負けるリスクが上がるかもしれないけど、こちらが何かアシストしてあげることで少しでもその確率が上がるのであれば、責任を持って指示を出してあげることも1つあるのかな、と。こっちで『こうしてくれ』って言って失敗したら、こちらの責任になるじゃないですか」。首脳陣がサポートし、責任を負った上で送り出すことも必要だというのが考えだ。
このキャンプでは谷川原のほか、渡邉陸、海野隆司、牧原巧汰、吉田賢吾の5人の支配下捕手が打撃に、守備にと汗を流している。嶺井も加えた面々の中から甲斐を脅かす、追い抜けるだけの選手が出てくるか。小久保新監督と高谷コーチの起用も注目のポイントになるだろう。