ソフトバンクの2023年は71勝69敗3分け。シーズンを3位で終えて、クライマックスシリーズではファーストステージで敗退した。西田哲朗広報は球団広報となって3年目のシーズン。チームの戦いを見守る中で、確かな成長を周東佑京内野手に感じたという。「リーダーシップが目に見えるようにまでなってきた」という瞬間とは――。広報だからこそわかる部分に迫った。
終盤戦の戦いを牽引していたのが、周東だった。9月、10月は主に1番打者として出場して打率.330、12盗塁を記録した。ロッテ、楽天と最後まで続いたデッドヒートの中で、確かな存在感を示していた。結果的に36盗塁で3年ぶりのタイトルも獲得し、西田広報も「タイトルも取れるくらいになって(広報の目から見ても)佑京の活躍は多かったですよね」とその姿を見守っていた。
9月29日の西武戦(PayPayドーム)では左足を痛めて途中交代となった。周東のコンディション、終盤戦のピリピリした空気もあった一方で、目まぐるしい活躍もしているだけにメディア露出も求められる。広報としても腕の見せどころだったはずだ。「コントロールしないといけないのは全選手同じですけどね」とした上で西田広報は、どのように周東との距離感を図り、メディア露出をお願いしていたのか。
「当然インタビューの依頼は多くなっていました。それは必然なんですけど、後半は、広報の僕としてはマスコミに出していかないといけないのもあるんですけど、クライマックス争いもしていて。インタビューを録るとしても、その選手が活躍できなかった時のことも考えます。大まかなビジョンで見ると、目先のことを考えて出すことでマイナスになることもあるかなと思っていました」
「佑京が活躍して、目先のインタビューを録ることで選手の負担を増やしてしまうと、活躍しなくなるとチームとしてもマイナスですよね。選手にとってもプラスになるように、終盤戦では極力インタビューは削っていましたね。今こういう大事な時期なので、クライマックスまで上がったら受けましょうという調整の仕方をしていました」
広報の最大の仕事は、メディアの露出をコントロールすること。選手、チームの状態を見極めて、依頼を断らなければならない時だってある。選手とメディアとの間に入る西田広報も「現役の時でも、嫌な時だってあるじゃないですか、インタビューが。そういう時のことも考えて調整はしています」と自身の経験を生かしながら日々を過ごしている。周東を筆頭に、選手とのコミュニケーションを欠かすことなくコントロールしてきた。
広報の仕事に就いて3年目。選手の言葉を一番近くで聞き、人として成長する姿も自分なりに見守ってきたつもりだ。「これ毎回言うんですけど……」と西田広報が強調するのが、選手が“注目されること”に対して、感謝するまでのプロセス。あまりにも注目や露出が集中すると、プレッシャーや負担にも感じる選手も時にはいる。その中で、周東は周東なりに、どこまでも真摯にメディア対応をしてくれると西田広報は言う。
「佑京も育成から入ってきて、すぐに支配下になった。1回大怪我をしたりして戦線から離れると、下の景色も見るわけですよね。そこから一周り大きくなって、考え方も変わって帰ってきているので。佑京は(インタビューも)受けるべき時は絶対に受けてくれます。それこそ、僕たちの説明の仕方で佑京の捉え方も変わるんですけど。こちらから『受けてほしい』と言うときは、彼は断ることをしなかったですね」
2017年育成2位で東農大オホーツク大から入団。横一線どころか、マイナスから始まったプロ生活だった。2021年9月には右肩の手術も経験。当然、リハビリの選手を球団から露出していくわけにもいかないだけに“陽の目”を浴びることができない日々だって味わった。周東自身が“下の世界”を見てきたからこそ、注目してもらえることの感謝をしっかりと感じていると、西田広報は話す。
オフとなった今は広報にとっても、選手とスケジュールを調整して、メディアに売り出していくタイミングだ。周東についても「テレビ収録やインタビューも調整している段階なんですけど『この時期は受けられない』という期間があるわけです。それでも佑京は『その代わり、こっちのタイミングでいっぱいやります』という発言をしてくれるんです。それは彼の自覚というか、日の丸も背負ってリーダーシップも出てきたのかなと」。初心を忘れず、誠実で、謙虚。広報の目線から見ても、それが周東佑京の人柄だ。
「もともとリーダーシップを取ってやるタイプじゃないかもしれないですけど、ちょっと目に見えるようにまでなってきましたよね。『おっし!』って言いながら引っ張るタイプじゃなくて『よし、行こうか』みたいなテンションではありますけど、上手く佑京らしさでまとめている感じはありますよね。このキャンプでも主力として一番上の選手ですから」
周東は今、宮崎県の生目の杜運動公園で行われている秋季キャンプに参加している。野手は宮崎、投手や筑後という球団としても初の“縦割りキャンプ”で、周東は野手では最年長だ。第1クールのある日、宿舎の食事会場での出来事。西田広報は周東を含めて柳町達外野手、海野隆司捕手、谷川原健太捕手、川瀬晃内野手、渡邉陸捕手らとテーブルを囲んでいたという。その会話が、新鮮だった。
「面白かったですよ。『周東さん、周東さん』みたいな感じで。『じゃあみんなで飯行くか』みたいな会話もあって、焼肉行こうよ、みたいな。そういう会話を見ながら、あの佑京が後輩をご飯に連れて行こうとしてるわって思ったり(笑)。佑京って大体、先輩と『行きましょうよ』ってタイプだと思うんですけど、後輩を連れて行こうとしているのは珍しいなって思ったので」
後輩しかいない中で、周東が“先輩らしさ”を見せる瞬間を目撃した。受け継がれてきたチームリーダーの意思は今、周東佑京に宿ろうとしている。