森唯斗が球団から戦力外通告、退団に甲斐野央も「一番よくしてくれた先輩」
経験を積んできたからこそ、先輩の偉大さが身に染みる。ソフトバンクの森唯斗投手は、球団から来季の選手契約を結ばない旨を伝えられた。通算470試合に登板してきた右腕が、ホークスを去る。ファンと同じように、寂しさを感じているのは後輩も同じだ。森と自主トレをともにした甲斐野央投手は「入団当初から一番よくしてくれた先輩なので、もちろん寂しい気持ちです」と受け止めた。
甲斐野は今季46試合に登板して3勝1敗2セーブ、防御率2.53。2022年は25イニングを投げて14四球。今季は42回2/3を投げて13四球と、課題だった制球面にも改善が見られ「ルーキーの頃は“イケイケドンドン”で投げていましたけど。やっぱり投手はコントロールだと思います」とうなずく。四球が減ったことも「今年取り組んできたこと。続けていった上で、もう少し細かい精度を課題にしていけたら」と手応えも感じている。
2018年のドラフト会議で1位指名を受けて入団。1年目から65試合に登板すると、オフに自主トレ同行をお願いしたのが森だった。「僕の目指すべき場所、そんな方だったので。見て学びたい思いもありましたし、1年目が終わって何もわからない状況だったので。聞けることは全て聞いて、盗んでやろうという気持ちでした」。電話ではなく、面と向かって頭を下げて「お願いします」。初めて森に“弟子入り”した瞬間だった。憧れた先輩から学んだのは、技術はもちろん、人としての大きさだった。
「いっぱいありますよ。いっぱいある中で、やっぱり話すというよりも行動で示してくれました。ブルペンリーダーとしてもそうですし、ピッチャーのリーダーとしてもそうです。感化された後輩というのは僕だけじゃないと思いますし、本当にいいものを残して下さった先輩だと思います」
森は今季は本格的に先発に挑戦したが、1軍では6試合登板にとどまった。ファームで過ごす時間が長かったが、小久保裕紀新監督が率いた2軍は日本一に輝いた。8月には森が「3連勝すれば投手会」と提案するなど、2軍でも若鷹たちと汗をかき、鼓舞するような背中で見せる先輩だった。甲斐野も「そういう兄貴肌はすごくある方」と尊敬してやまない存在。どこにいてもチームのために貢献しようとする先輩の姿を、自分なりに見てきたつもりでもある。
甲斐野からは「唯斗さん」と呼び、森からは「甲斐野」とも「央」とも呼ばれる関係性。男気に溢れ、豪快なイメージが強い先輩ではあるが、振り返った時に甲斐野が浮かぶのは優しい姿だという。「あまり表沙汰にはなっていないですけど、よく叱られましたよ。僕もわからないこといっぱいありましたし……」と頭をかくが、それが愛情であることはもちろん、甲斐野自身が一番よく理解している。
「あの人も、目配り気配りがすごくできる人だったんですよ。それは一緒にいてすごく感じていました。そういうところも教えられて学びましたし。めちゃくちゃ優しい人ですよ」
中継ぎなら、毎試合登板のために準備をする。たとえ試合で投げなくとも、ブルペンで肩を作る回数や、練習中のキャッチボールの球数まで管理して、1年間のコンディション維持を目指す“仕事場”だ。「ボールを投げすぎていたら、ちょっと気にかけてくれて『お前、ボール投げすぎちゃうか?』って。そういう細かいところまで話してくれました」。森自身の準備もある中で、後輩の状態まで気を配る。そんな先輩だったから、背中を追い、ついていきたくなった。
甲斐野にとっては今季が5年目だった。津森宥紀投手や大津亮介投手ら、少しずつ後輩も増えてきた。自分は「唯斗さん」のように振る舞えているのか。「いや、まだまだでしょう。あの人みたいに『ついていきたい』と思ってもらうにはまだまだ。それはあの人の才能でしたし、僕も甘えていましたから」。経験を積めば積むほど、森の偉大さも優しさも、何度だって痛感しているところだ。
来季、森が戦力構想から外れているということは、報道で知ったという。23日にはスーツ姿でグラウンドに来て、1人1人に挨拶をしていた。甲斐野も「色々話はされましたし『頑張れよ』と言われました」と明かす。「いなくなることで寂しい思いもありますけど、まずは自分たちの活躍が嬉しいと思いますし。『お前よく頑張ってるな』って一言いただけるように僕もやっていきたいです」。たとえチームを離れても、この人に認められたい思いは同じだ。
「来年もおそらく僕は中継ぎだと思うので。ルーキーも入ってきますし、今年なら大津とかもいい経験をした。そういうところで、僕もああいう(1年目から)経験をした中で立ち直らせてくれたというか、ブルペンをまとめてくれていたので。そういうのも来年、もっともっと大事になってくるんじゃないかなって思っています。唯斗さんはそれこそ目配り気配りしてくださっていたので。中継ぎ陣も先発陣も“チーム”になっていけたら、勝負していけると思う。少しでも力になりたいです」
小久保新監督のもと、新しいスタートを切る2024年。本格的な戦力構想はこれから加速していくところだろう。森は通算127セーブを記録した。甲斐野も「プロの世界はそんな甘くないし、いろんな経験をさせてもらっているところ」とした上で「クローザーは入団当初から僕の目標」とハッキリ言い切る。憧れた背中は、越えていくためにある。
(竹村岳 / Gaku Takemura)