選手が摂る前になくなった食事 最新鋭のテクノロジーも活用できず…V逸の原因を検証

ソフトバンク・藤本博史元監督【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・藤本博史元監督【写真:荒川祐史】

ドラフト戦略、助っ人補強…編成を行うフロントにももちろん責任

 2023年、ホークスの戦いが終焉を迎えた。3年ぶりのリーグ制覇を目指したレギュラーシーズンは3位に終わり、「パーソル・クライマックスシリーズ・パ」は、敵地ZOZOマリンスタジアムで行われたファーストステージでロッテに1勝2敗で敗退。日本一への挑戦権すら得られず、藤本博史監督が指揮を執った2年間が終わった。ホークスの歯車はどこで狂ったのか。今季浮き彫りになった課題を検証する。

 長く険しいシーズンを戦い抜くために最も重要なのは、選手が100%のパフォーマンスを発揮することだ。選手個々の準備はもちろん、監督、コーチ、トレーナー、裏方スタッフ、そしてフロントのサポートが不可欠となる。ただ、果たしてホークス球団全体が“選手ファースト”で動けていただろうか。

 シーズン中にこんな出来事があったという。本拠地PayPayドームでの試合前。普段、選手たちは個々の練習を終えると、選手サロンで試合に備えて食事を摂る。監督やコーチ、そしてスタッフも同じサロンで食事を食べるが、ある日“事件”が起こった。

 グラウンドでの練習、ウエートトレーニングなどを済ませた選手たちが、試合前の準備を一通り終えて食事のために選手サロンに向かうと、その日出されていたメニューの一部がなくなっていた。本来、選手のためにある食事のはずだが、先に摂り終えた選手に加えて、監督、コーチ、スタッフらが食べてしまっていた。

 ある選手は、「選手がトレーニングを終える前に食事がなくなるなんて、あっていいのか」とチーム全体の姿勢に疑問を呈していた。これはあくまでも一例で、“選手ファースト”とは言えないことが、いくつかあったという。

 最新鋭のテクノロジーも十分に活かせなかった。現代のプロ野球はいかに情報を活用し、データを駆使するかが勝利に近づくための鍵。各球団がアナリストやデータ班を拡充させ、多様なデータを用いて分析、研究を行っている。ホークスでもトラッキングシステムを球場に設置するだけでなく、ポータブルのトラックマンやラプソードを取り入れ、動作解析ツールも導入。専門の人員を増員させている。

 メジャーリーグでの経験があるロベルト・オスナ投手でさえ「テクノロジーはもの凄くある。メジャーでもプレーしていたけど、そのメジャーのチームよりもテクノロジー自体はすごい」と施設の充実ぶりに驚いていたほど。その一方で「そのテクノロジーが活用できなかったら意味がない。この時代に情報は大事だし、何チームかはその情報をうまく活用して選手に届けている」とも指摘していた。

 どういうことか。どれだけ最新鋭のテクノロジーを取り入れ、情報を収集しても、現場が活用できなければ、意味がない。今季指揮を執った藤本博史監督は「ある程度、相手ピッチャーのデータとか相性とかを見てやってきた」と語っていたものの、対左右別打率など古くからあるデータを確認するだけで、最先端の緻密なデータや指標は重視せず、スコアラー陣にこうしたデータ、指標を求めることもなかったという。

 当然、編成を司るフロントにもV逸の責任はある。首脳陣と選手の間にあった溝を埋められなかったのはもちろん、補強のために呼んだはずの助っ人、特に野手は散々の出来だった。アストゥディーヨ、ホーキンス、ガルビス、途中加入のデスパイネと4人でわずか1本塁打。ホーキンス、途中加入のデスパイネとヘルナンデスは藤本監督の要望で獲得した選手だったというが、ここまで助っ人補強がハマらなかったのは、指揮官としても計算外だっただろう。

 近年のドラフト戦略にしてもそうだ。オフには2015年のドラフト1位の高橋純平投手、2019年のドラフト1位の佐藤直樹外野手と2人のドラ1が戦力外になった。本来であれば、チームの中心になっていなければならないドラ1だが、ここ10年でチームの主力となっているのは松本裕樹(2014年)と甲斐野央(2018年)の2人だけしかいない。

 24日に発表された野球日本代表「侍ジャパン」のメンバーにも、ホークス勢は1人も選ばれず、22歳以下で球界を代表する選手がほぼいない、という現実が浮き彫りになった。基本的にホークスはドラフト戦略や編成面は全てフロントによって行われ、例えばこのオフの動向にも、小久保裕紀新監督の意向は反映されていない。多くの若いスターが台頭してきているオリックスと比べれば、近年のドラフト戦略がその差に繋がっているのは明白で、これも3年連続V逸の原因である。

 当然、勝敗に直結するのは選手たちのプレーである。中村晃外野手はロッテ戦後に「今日の試合のように、あと一歩及ばないところっていうのを全員が反省というか、忘れないようにしないといけないと思います。やっていることは去年と一緒。それを全員がどう感じるか」と語っていた。選手たちにもまだやれることはあったはずだ。

 今宮健太内野手も最終盤、ベンチの雰囲気についてこう語っていた。「遅いですよね、やっぱり。ここに来て(雰囲気が)一番になるっていうのは、遅かったなと思います」。リーグ優勝が遠ざかる中で、チームにはどこか冷めた空気が漂い、危機感が希薄だったのは否めない。優勝を逃してから、順位が2位、3位、4位のどれになるかの時期にようやく一体感が生まれ出したのは、確かに遅すぎた感は否めない。

 来季からは、今季2軍で指揮を執った小久保新監督が采配を振るう。現代野球はデータや指標を基にして戦略を練り、それを基にした選手起用、チームマネジメントが行われるべきだ。新監督のもとで立て直しを図ることになるホークス。優勝から遠ざかるこの3年間を無駄にすることなく、チーム強化につなげてほしい。

(鷹フル編集部)