球団幹部もスカウトも驚愕「あんな高校生見たことない」 ドラ1前田悠伍の稀有な魅力

1位指名を受けた大阪桐蔭高・前田悠伍【写真:福谷佑介】
1位指名を受けた大阪桐蔭高・前田悠伍【写真:福谷佑介】

「高校生であれだけしっかり受け答えできるっていうのはすごいことだなと思います」

 担当の稲嶺誉アマスカウトが、頼もしそうに口にした。

「あんな高校生見たことありませんよ」

 視線の先にいたのは、多くのメディアの要望に応えてポーズを取り、無数のフラッシュを浴びる前田悠伍投手(大阪桐蔭高)だった。物怖じしない堂々とした立ち居振る舞い、ハッキリとした話し方。およそ高校生らしからぬ雰囲気を、高校生ナンバーワン投手は醸し出していた。

 26日のドラフト会議でホークスは前田を1位指名した。公表していた武内夏暉投手(國學院大)を抽選で外しての1位だったが、それでも3球団が競合した。小久保裕紀新監督が2度目の抽選で前田を引き当てると、27日には永井智浩編成育成本部長兼スカウト部長、福山龍太郎アマスカウトチーフ、稲嶺スカウトが同校に指名あいさつに訪れ、校長室で言葉を交わし、その後、報道陣の取材に対応した。

 何よりも関心させられたのが、その時の姿勢だった。

 必ず質問した記者の方向に体を向け、相手の目を見てハッキリと言葉を返す。ハキハキと、そしてよどみなく出てくる言葉の数々。中学生時代から世界大会を経験、大阪桐蔭高でも1年秋からベンチ入りし、明治神宮大会やセンバツ優勝など数々の大舞台を経験した場慣れもあるだろうが、あそこまでの立ち居振る舞いは、慣れていたとしてもなかなかできるものではない。

 校長室で話をした永井本部長も、改めてその人柄について触れた。「高校生であれだけしっかり受け答えできるっていうのはすごいことだなと思います。何を聞いてもしっかり自分の意思を持って答えてくれるので、すごく楽しみですね。本当に受け答えが素晴らしいです。自分が高校のときにはあんなに答えられなかったなと思います」。自身の高校時代と重ね合わせて感嘆した。

 立ち居振る舞いだけではない。その言葉の端々にも自覚が滲む。

「大阪桐蔭という看板もあるので変な行動というのは取れないと思う。しっかり責任を持った行動を、野球の面においても、生活の面においてもやっていけたらと思っています。これから本当のスタートだと思うので、より一層、気持ちを改めてというか、行動の面においても、野球の面においても全てイチからやっていくつもりで、やっていきたい」

「野球の技術的な面はもちろん上げていかないといけないと思うんですけど、人として成長していきたい。時間がないようであると思う。人として成長ができれば、野球の技術も自然と上がっていくっていうのは、西谷先生からも言っていただいた言葉なので、より一層、行動を改めるというか、野球の面はもちろん、私生活の面でも『見られている』という意識を持ってやっていきたいと思います」

 高校生でここまで自分を律した言葉を並べられる選手も珍しい。名門・大阪桐蔭で投手ながら主将を任されてきた前田の人間性が窺い知れた。

 前田は、自身を超がつくほどの負けず嫌いだと称する。「負けず嫌いの方がほとんどだとは思うんですけど、それ以上にその人たちに負けないぐらい負けず嫌いというか……。野球以外でも負けず嫌いで、負けたら『もう1回やらせろ』みたいな感じ。負けず嫌いっていうのは自分の性格で一番強いと思います」。そんな前田が転機に挙げるのは、その嫌いな“負け”だという。

「下関国際戦の負けであったり、今年の夏の履正社戦での負け、この2つの大きな負けっていうのが本当にプラスになっています。ああいう負けがなければ、今の自分はいないと思いますし、あそこからより一層、このままじゃ駄目だという気持ちにもなった。あの2つの負けっていうのが大きかったかなと思ってます」

 2年夏の甲子園準々決勝の下関国際戦。リリーフで登板した前田は1点リードの9回に2失点し、チームは逆転負け。春夏連覇の夢は潰えた。3年夏は大阪大会決勝で履正社に敗れ、最後の夏での甲子園出場を逃した。どちらも苦い思い出。ただ、その負けを糧にできるのが、前田の持ち味でもある。

「1日でも早く1軍に上がるっていうところをまずは目標としています。そこから、どれだけやっていけるかっていうのも自分の力試しでもありますし、チームを勝たせられるようなピッチングをするだけだと思うので、そういったところを意識してやっていけたらいいなと思ってます」。大きな期待を背負ってプロの世界に飛び込むドラ1前田。未来のホークスを担うエースに育つことを期待したい。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)