「先発をしてみたい」 藤井皓哉が抱く“個人的な希望”…胸に残るマウンドでの“怒り”

ソフトバンク・藤井皓哉【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・藤井皓哉【写真:荒川祐史】

ホークス移籍2年目は34試合に登板して防御率2.33、先発と中継ぎの両輪で活躍

 明確な分岐点があった。しっかりと手応えを掴んだシーズンだった。ソフトバンクは16日、ロッテとの「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファーストステージ第3戦で敗れ、2023年の戦いが終わった。チームとして課題も収穫もあった中で、先発と中継ぎの両輪で活躍した藤井皓哉投手にシーズンを振り返ってもらった。「自分に可能性があると思える1年でした」という言葉の真意とは。

 昨季からホークスに加入し、2022年は中継ぎとして55試合で防御率1.12と圧倒的な成績を残し、今季は先発転向を目指してオフのトレーニングを積んできた。開幕からローテーションに入ったものの、6月11日の巨人戦(PayPayドーム)で左脇腹を痛めて戦線離脱。7月25日、今度は中継ぎとして1軍に昇格した。結果的に34試合に登板して5勝3敗、防御率2.33の数字を記録した。

 成績を振り返って、第一声は「怪我もありましたし、自分の中では中途半端な1年でした。もっとできたかなっていう……」と言う。その上で「まだ自分に可能性を見出せるところもありました。どっちも、ですね。まだできたところと、自分に可能性があると思える1年でした」と続けた。

 150キロを超える直球とフォークが最大の持ち味である右腕だが、今季の先発転向に際して、春季キャンプからカーブやスライダーという曲がり球の習得に時間を費やした。「僕の中ではリリーフと先発は別物。違う“職業”だと考えている」と自分なりの認識を持っていたが、シーズンが終わった今は、少し違う。

「先発は初めての経験だったんですけど、リリーフになってからも常に試行錯誤はしていました。でもその(リリーフのような)感じで先発をすれば、違うものがあるのかなっていう。“変えすぎていた”じゃないですけど、もう少し同じような感覚を持ってもよかったかなと今は思います。曲がり球もそうですけど、またリリーフもしてみて『こうしたらいいのか』っていうものは形になったので。先発の時にもこれくらいで投げられたら、違ったんじゃないかなって思います」

ソフトバンク・藤井皓哉【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・藤井皓哉【写真:荒川祐史】

 自分に感じた可能性とは。「まだ成長できる場所がたくさんある」と胸を張って言う。2022年は中継ぎとして結果を残したが「成績だけは去年の方がよかったですけど、(ボールに対しての感覚は)去年よりは良くなっている」とキッパリだ。「試合に入っていく準備とか、そういうところ」と、少しずつ自分の中で道筋が明確になりつつあると言う。

「ルーティンというか、考え方ですね。この場面はこれだけは絶対にしたらいけない、とか。去年は確かにそういう考えもありましたけど、それをイメージしてもイメージ通りの球が少なかった。今年はそういうボールが増えてきているので、あとは感覚がさらに長い期間続くように。さらに良くなるんじゃないかなって思います」

 とはいえ、左脇腹の肉離れから復帰して以降は、イメージ通りには行かなかった。ファームで登板しても、毎試合のように四球を与える。1軍でも8月の防御率は4.50だった。分岐点となったのは8月4日の日本ハム戦(エスコンフィールド)だった。先頭の奈良間に右前打を浴びると、味方の失策も絡んで同点とされた。「そこまでもモヤモヤしていましたけど、その試合がキーというか。ハッキリと『このままじゃダメだ』と思った」と言う。

「自分に腹が立った試合でした。モヤモヤしている自分がそこにいることに腹が立ったというか。2軍の試合でも四球も出して、すごいモヤモヤしている状態で(1軍に)上がってきて。そんな状態が2、3週間続いた。このままだといい成績は出せないし、いいボールは投げられない。そこからいろんな方に協力していただいて、映像を重ねて見比べてもらったり、トレーニングのアプローチをトレーナーさんにお願いしたりしました」

 少しずつメカニックから修正して、結果的に9月、10月は15試合に登板して防御率1.23。松本裕樹投手、ロベルト・オスナ投手に繋ぐ「7回の男」として存在を示し続けた。「体が去年と違うので当然なんですけど、1度フォームも見直しをして。去年と何が違うのか。去年のフォームの方が、今の自分には合っていると思った」。“2022年式”のフォームが結果に繋がり、夏場以降ではあるが、ブルペンの太い柱になっていった。

ソフトバンク・藤井皓哉(左)【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・藤井皓哉(左)【写真:荒川祐史】

 今季は、規定投球回に達した投手が0人。藤井も「僕も怪我をしたので……」と責任を受け止める。終戦した10月16日、藤本博史監督が退任することが発表された。監督が変わるのであれば、野球が変わる。2024年の構想は、新監督がこれから考えていくものではあるが、藤井個人の意見を聞いた。先発と中継ぎ、どちらを希望するのか。

「個人的には先発をしてみたいのはあります。でも最終的にはチームの監督、コーチがどこにいてくれたら助かるっていう話を聞きながら話していきたいですけど。これはいち個人、いち野球人の話になるんですけど、先発をすることで得られるメリットが自分の中で多いというか。先発をすることで、さらに成長できるところもあるので、やってみたいのはありますね」

 起用を決めるのは当然、首脳陣。あくまでも藤井だけの希望ではあるが、そう語る表情は、野球選手としての成長だけを見据えていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)