優勝の大本命と目されていたホークスの歯車はどこで狂ったのか
2023年のホークスの戦いが終焉を迎えた。3年ぶりのリーグ制覇を目指したレギュラーシーズンは3位に終わり、「パーソル クライマックスシリーズ パ」は敵地ZOZOマリンスタジアムで行われたファーストステージでロッテに1勝2敗で敗退。日本一への挑戦権は得られず、2年間、指揮を執った藤本博史監督は今季で退任することが決まった。
17日、本拠地PayPayドームで行われた退任会見に臨んだ藤本監督は「ここぞっていう時に勝てなかった。そういうところですかね」と涙を浮かべ、言葉を詰まらせながら、この2年間を振り返った。優勝を義務付けられたホークスの指揮官。その重圧と戦い、神経をすり減らしながら、必死に1試合1試合を戦ってきたが、優勝には手が届かなかった。
昨オフにFAで近藤健介外野手、嶺井博希捕手を獲得し、レンジャーズからFAとなっていた有原航平投手もチームに加えた。ロベルト・オスナ投手やジョー・ガンケル投手、ウィリアンス・アストゥディーヨ内野手、コートニー・ホーキンス外野手といった助っ人も補強して迎えた今シーズン。優勝の大本命と目されていたホークスの歯車はどこで狂ったのか。
来季こそはリーグ優勝を奪還しなければならない。そのためには何が必要なのか。強くあってほしい、勝ってほしいからこそ、あえて今季浮き彫りになった課題を前後編にわたって検証する。前編は「チーム内に生じていた溝」。
143試合にわたって続く長く険しいペナントレースの戦い。1年間を戦い抜き、頂点を掴み取るためには、チームは“一枚岩”でなければならない。選手だけでなく、首脳陣、フロントまでもが一丸となって戦う重要性を痛感するシーズンとなった。
昨季から綻びは見え始めていた。選手に直接伝えるのではなく、メディアを通じて選手にゲキを飛ばそうとする藤本監督のスタイルを選手たちは良く思っていなかった。指揮官が良かれと思って、メディアの前で選手の名前を出して批判することに徐々に不満をこぼすようになっていた。昨季はリーグ最終戦でまさかのV逸。2軍監督からの昇格で、選手からの信頼も厚かった指揮官の求心力は低下し始めていた。
そうした不満が爆発した試合がある。5-6で競り負けた6月1日の中日との交流戦のことだ。同点に追いついて迎えた7回1死一塁、栗原陵矢外野手が一塁走者で、打席には柳町達外野手が立っていた。3球目に栗原がスタートを切り、柳町は清水のフォークに空振り。栗原は二塁で憤死した。流れを手放し、チームは痛い1敗を喫した。
この試合後の囲み取材。7回の攻撃について、報道陣から「栗原くんのところはエンドランですか」と質問が飛んだ。ヒットエンドランであることを理解し、その説明を求めたニュアンスだった。指揮官は一度「ん?」と聞き返した。「栗原選手がタッチアウトになったところです」と返されると、「盗塁じゃないの。以上」とだけ言い、自ら会見を切り上げて、その場を立ち去った。
指揮官自身はそんなつもりはなかったはずだが、選手に責任を押し付けたようにも取れる言葉はSNSで一気に広がって、選手も目にする事態に。選手たちが「あれはエンドランです」「盗塁じゃないです」と弁明し、中には監督室を訪れて抗議する選手もいた。監督と選手の間に少なからず、溝は生まれていた。
首脳陣の足並みも揃っていたとは言い難かった。スタメンや代打起用、継投はほとんどが藤本監督の一存で決められており、例えば、ローテやリリーフ起用において、斉藤和巳1軍投手コーチの意見はほとんど聞き入れられていなかった。指揮官と一部のコーチは言葉を交わすことがなくなっていき、森浩之ヘッドコーチを間に挟むような状況になっていた。
監督という大役を任され、計り知れない重圧の中に藤本監督はいた。ただ、“一枚岩”になりきれていない状態で、今年のホークスは戦っていた。野球は局面局面は1対1の個人での戦いではあるが、やはりチームスポーツ。選手個々が100%を発揮し、ここに一体感、チームワーク、ベンチワークが加わった時に120%、130%という力が生まれる。選手とベンチが一丸となって1年間を戦い抜く重要性。それが露呈したシーズンだった。(後編に続く)
(鷹フル編集部)