在籍8シーズンで6度の日本一、勝ち続けたからこそできた数々の経験「優勝すると全て丸」
鷹フルでは、ソフトバンクOBである楽天の川島慶三2軍打撃コーチに単独インタビューを実施しました。全3回でお送りする連載の1回目、テーマは「ホークスファンへの感謝」です。2021年オフにホークスを退団してから、2年が経ちました。4球団を渡り歩いたからこそ、気づいたホークスの良さとは? ファンの特性は? 近況報告を兼ねて、ファンにメッセージをお願いすると、7年半を過ごした福岡への感謝を語ってくれました。
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長崎県佐世保市に生まれ、九州国際大を経て、2005年のドラフト会議で3巡目指名を受けて日本ハムに入団した。2年目のオフにトレードでヤクルトに移籍。2014年7月に自身2度目のトレードでソフトバンクに入団した。そこから7年半を過ごしたホークスへの感謝はいまだに尽きず「楽天も北海道もそうですけど、地方の球団じゃないですか。東京の方ももちろん熱いんですけど、九州が1つになって応援してくれている感じはありました」と振り返る。
ホークスでは8シーズンで4度のリーグ優勝、6度の日本一に貢献。明るいキャラクターと、勝負強いプレースタイルでチームに欠かせない存在となっていった。福岡で学んだことに「やっぱり野球以外のところをしっかりしないといけない。人として、ですね。挨拶1つにせよ、そうです。日頃の行動もそう、準備もそう、発言、行動……」と言う。プロとして、徹底した姿勢を追い求めるほど、行き着く先は“人として”の部分。「野球だけ成長しようと思っても無理だということ」と、指導者となった今も生きている経験ばかりだ。
「(自分も現役の時は)20代は子どもだった。俺が偉い、みたいな。そこまでは思っていないですけど、1番だ、みたいな。そういうのは早く気づけた方がいいかなっていうのは若い子に伝えています」
日本ハムでも日本一は経験したが、ヤクルトでは優勝は叶わず。ホークスで何度も歓喜の瞬間を味わった。それぞれの良さや特性があった中で、結果的に4球団を渡り歩き、ホークスで得たことは「勝ち続けたっていうところです」と言う。プロである以上、結果が全ての世界。頂点に立って、初めて報われるということがたくさんあった。
「優勝すると全てが丸になるんですよ。だから『あの方がいたから』とか『裏方さんのおかげ』という言葉にも、つながってくる。そういう(影の貢献が)見えないところが他の球団には多分あると思うんですよ。勝って初めて見えるものがあるので、そこはホークスの良さだったのかなって思います」
感謝している人がたくさんいても、それを表現するためにはまず、自分たちがグラウンドで最高の結果を出さなければならない。頂点からの景色でしか、見えないものがたくさんある。ホークスでの7年半は、今でも自分の価値観を支える大事な経験ばかりだった。「日本一だったり、そういう経験はやっぱり他には味わえないところではありますから。それは選手の頑張り、監督コーチ、スタッフ、裏方さんの頑張りがあったから」と、どこまでも感謝は尽きない。
幾度とあるだろうホークス時代のハイライト。川島コーチと言えば、2017年のDeNAとの日本シリーズ。3勝2敗で迎えた第6戦、延長11回にサヨナラ打を放って日本一を決めた。記録はもちろん、記憶に残る選手。自分の一打で日本一を決めたことを「そうはないですからね。いい経験をさせてもらいました」と、今でも“勲章”のように思っている。そして「僕が一番冷静だったのかもしれない」。鮮明に覚えているのは、大熱狂の中で飛び込んだ自分だけの“ゾーン”だ。
「時が止まって見えたというか。ベンチのみんなの表情を見たりして。もしここで決めたら……とか。そういうのがね、スローに感じたんですよ。そんなふうに感じて。打ったから言うとかじゃなくて、本当にみんなの表情とか声とかが入ってきて、声援もいつも通り大きかったですし。打った時はそれがパンと弾けて、やってしまったって感じでしたね」
興奮するわけでも、緊張で浮き足立つわけでもない。極限にまで達した集中力は、いつもなら見えないような“景色”に連れて行ってくれた。この試合「7番・二塁」でスタメン出場していた川島コーチ。「そこはね、工藤(公康監督)さんに感謝ですよ、やっぱり。あそこで代打を送らなかった工藤さん。信じてくれたのか、そういうところもつながってきますよね」と、ここもまた感謝。打席に立たせてくれたことにも、最高の結果で応えてみせた。
2021年オフにホークスから戦力外通告を受けたことで、現役続行を希望して退団。新天地は、仙台。楽天に入団して、1シーズンを戦った。2022年オフに来季構想外であることを告げられ、選んだのは現役引退。楽天球団からの発表で、ファンは知ることになった。自分の口から明かす、現役を引退した理由とは――。最後まで野球小僧だったことも“慶三さん”らしかった。
「僕はね、ずっと僕から辞めるっていうことはしたくなくて。『慶三、お疲れさん』って肩を叩かれて終わりたい人だったので。気持ちよく連絡が来て。『来年は構想外です』っていうふうに、石井監督兼GMから。言っていただいてって感じです。ありがとうございますってなって、辞めました」
ホークスファンからは、今でもSNSを通じてメッセージが届くという。「オフに『イベントをやって』っていうDMがたくさん来たりとか、依頼があったりとか」と照れ笑いで明かす。明るいキャラクターで愛されていただけに、テレビ出演も多かったホークス時代。とある番組企画を「また見たい」という声が多いそうで「『もっとやってください』『またやってください』っていうのは来ます。それはまずいだろって思いますけど(笑)」と話す表情は、やっぱり嬉しそうだった。
最後に、近況報告も兼ねてホークスファンにメッセージをお願いした。姿勢を正して、背筋を伸ばして発したのは、心からの感謝の言葉だ。
「ホークスで7年半やった経験であったり、ファンの人の後押しもあって僕の知名度も上げることができたと思います。そこで、今があると思っていますから。今、楽天でこうやってユニホームを着てやらせてもらっていますけど、その7年半がなかったらこうして楽天でお世話になることもまずなかっただろうし。(楽天に)呼んでくれもしなかっただろうから。本当に、感謝っていうのは伝えたいです」
(竹村岳 / Gaku Takemura)