昨年の10月2日に逆転3ランを被弾、1年以上が過ぎた今も泉圭輔が抱える感情
同じ経験をしたからこそ、伝えられることがある。ソフトバンクは16日、ロッテとの「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファーストステージの第3戦に敗れ、2023年の戦いが終了した。延長10回に同点3ランを浴びた津森宥紀投手と、サヨナラ打を許した大津亮介投手。涙を流した2人のために、口を開いたのが、泉圭輔投手だった。
試合は両チーム無得点のまま、延長10回へ。ホークスは2死二塁から周東佑京内野手が先制の中前適時打を放つなど、一気に3点を奪った。9回にロベルト・オスナ投手を投入していたベンチは、4投手が残っていた中で津森宥紀投手を送り込んだ。だが、2人の走者を許し、藤岡に同点3ランを浴びた。すぐさま大津亮介投手に交代したが、2死一塁から安田に右中間へサヨナラ打を決められ、力尽きた。
3点差を逆転されてのサヨナラ負け。“幕張の悪夢”は2年続いてしまった。「引き分け以上で優勝が決まる」という昨年10月2日のレギュラーシーズン最終戦。2点リードの6回、山口に逆転3ランを浴びたのが泉だった。マウンドで両膝に手をついて、球場を去る時も涙を流した。現在は秋季教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」に参加中の泉は、まさかの形で迎えた終戦をどんな感情で見守っていたのか。
「本当にどっちに転ぶのかわからないような試合で、3点取って勝ったかなって思いましたけど……。本当、去年見た光景というか、ちょっと重なる部分は多かったかなって思います。津森もそうだし、大津もそうだし……。今年頑張ってきた選手なので、誰もそこに文句は言わないと思いますけど、でもなんかね……。津森が打たれた後の表情を見ていたら、本当に去年の僕を見ている感じだったので」
敗戦した夜、泉は津森に連絡を入れたという。自身の経験を踏まえて「大津もそうですけど、いろんな反響は良くも悪くもあると思う。僕はそれをマイナスに捉えてしまって、引きずるキッカケになったので。あまり周りの意見は気にしすぎないようにというか、なるべく見ないようにした方がいいかなと思う」と言葉を送る。今は少しだけ、外からの声に耳を閉ざしてもいい。頑張りを見て、知ってくれている人だって、必ずたくさんいる。
泉は自分でも少しだけSNSを覗いてみたという。感じたのは“ある変化”だった。泉自身が“10.2”の後に立ち直れたのは、心無い言葉や誹謗中傷の何倍も多くの励ましと応援の声が自分のもとに届いたから。「昨日のあの展開の方がよっぽどしんどかったと思う」と、自分が経験した時の状況とは全く違うということも踏まえて、泉だから感じられる心情を語った。
「本当にいろんな言葉を浴びせられて、個人的にもそういう発言をやめてくださいというか、それをかき消すくらいファンの人の声援は大きかったです、と発信するようにしていたので。それの効果があったのかどうかもわからないですし、比較したらアレかもしれないですけど、もちろん津森や大津の今年の頑張りを知っている人がたくさんいると思う。それに対する『しょうがないよ』というか、津森と大津が打たれたなら仕方ない、くらいの声も多かったかなと思う」
16日の悪夢の敗戦。津森は3安打、大津は2安打を浴びながらも四球は出さなかった。泉も「津森も先頭打者に10球くらい投げて、ちゃんと勝負に行っての結果なので。僕は四球を出しちゃった中でドカンと行かれましたけど、そういう点では津森も大津も、勝負にしに行っていて立派かなと思う」と、これも選手だからわかる目線だ。泉は、1歳年上の上林誠知外野手から「信頼されているから、あの場面で投げさせてもらっている」と励ましの連絡をもらった。津森にも大津にも言える積み重ねてきた信頼だ。
自身は今季3試合登板、防御率16.88に終わった。“10.2”を味わって、迎えた2023年。「僕の場合、引きずるというか、去年がトラウマになっているとかではないんですけど、やられた分、やり返さないといけないっていう気持ちの空回りが結局、自分の成績を下げることにつながった」。モチベーションにし過ぎたことが、うまく行かなかった要因だと受け止めている。自分の経験を踏まえ、2人に言葉をかけるとするなら――。
「あんまり、昨日の負けをやり返すというよりは、来年もしっかりと自分の仕事をするくらいで。考えすぎちゃうと良くないと思うので。大津もしかり、津森もしかりですけど。僕がこれで先輩っていうのか、わからないですけど……。でも、去年同じような経験をした身からして、言えることはそういうことかな、と。なかなかああいう経験はできることじゃないと思うので」
少なくとも、2人が真っ向から勝負に行く姿に、泉は勇気を受け取っていた。「あの2人の姿を見て僕も、ここから頑張らないと、と思いました」。プロである以上、やり返すには結果しかない。一生忘れられない悔しさを胸に、努力を重ねればきっと、もっと高く飛べる。
(取材・米多祐樹 / Yuki Yoneda)