鷹フルがお届けする主力選手による月イチ連載、甲斐拓也選手の「10月前編」です。今回のテーマは守護神のロベルト・オスナ投手との“勝利の儀式”について。ゲームセットを迎えたあとにオスナに抱えられる瞬間をどう感じているのか。守護神へのリスペクトがこもった思いが初めて明かされます。
ホークスには今、勝利の儀式がある。守護神のオスナが試合を締めくくると、マウンド上にできる歓喜の輪。マスクを被る甲斐が駆け寄ると、まず固くハグを交わす。次の瞬間、オスナが抱いて持ち上げ、公称87キロの甲斐がヒョイっと宙に浮く。なんともほっこりする可愛らしい光景に、ファンも注目する“お決まり”となっている。
いつから始まったか、甲斐本人も覚えていない。ただ、その瞬間はやはり格別だという。「あれは嬉しいですよ。試合に勝った後、ああいうふうにやってくれるっていうのは嬉しいですし、本当にめちゃくちゃ良い瞬間、捕手としては嬉しい瞬間ではあります」。勝利の瞬間は何よりも嬉しいもの。守護神のリスペクトのこもった行為はやはり胸に響く。
オスナは以前、鷹フルの取材に対してこう語っていた。「甲斐さんは投手のために努力をしてくれている。僕たちがうまくいった時には“その半分”じゃないですけど、甲斐さんがいて、自分たちができている。彼の仕事に感謝していることを示す意味でも(ハグを)しています」。そうやって語った言葉のあちらこちらに、甲斐へのリスペクトが滲んでいた。
オスナが感嘆していたのが甲斐の準備にかける献身さだ。試合に向けて行う準備、投手陣とのコミュニケーション、そして、投手が力を発揮するための心配り。そこへの感謝と敬意からこのハグ&抱っこを始めた。オスナの思いを伝え聞いた甲斐は「そういうふうに言ってくれるのは嬉しい。9回を投げるのってめちゃくちゃ大変だと思います。そこをずっと投げてますし、こちらももちろんリスペクトしています」と語る。
甲斐は投手陣、特にリリーフ陣が試合に臨むにあたって、どうアプローチしているだろうか。「中継ぎ投手はカード頭にミーティングしているんで、そういったところでも話はします。1人1人に伝えることも変わりますし、投げる前にはブルペンに行って話をして、なるべくちゃんと伝えるようにしています」。試合前のバッテリーミーティングだけでなく、各投手が登板する前にも意思疎通を図る。
「イニングで回ってくる打順であったり、どういう風にしていくのかっていうこちらのプランをある程度伝えて、向こう(投手)のプランというのも聞きます。今日の状態はどうなのか、それによって入り方も、選択する球も変わってくる可能性がある。そこの話はちゃんとしてやっています」
それは絶対的な守護神であるオスナに対しても変わらない。本拠地PayPayドームであれば、打順の巡りもあるが、可能な限り登板前にはブルペンに行って会話を交わす。次のイニングの打順の巡り、回ってくる打者の状態とそれまでの傾向、そして攻め方のプラン。甲斐の考えだけでなく、投手自身が感じるその日の状態、感覚、考えも確認。お互いの意見を擦り合わせた上で、投手が不安なくマウンドに上がれるようにしている。
こんなこともあった。ベルーナドームでの西武戦。イニングを終えてベンチに戻った甲斐は、すぐに一塁側ファウルゾーンにあるブルペンへと走っていった。次のイニングに登板する予定となっていたルーキーの大津亮介投手と椅子に腰掛けて言葉を交わした。この時も打者の巡りや特徴を踏まえた上で、自分の考えを伝え、大津の考えを聞いた上で2人でプランを組んだ。
「絶対に話をしていった方がいいので。いきなりサインを出されるよりも、ある程度、投手にも準備してもらった上でやった方が絶対にいい」。甲斐は遠征先への移動中や宿舎でも相手打者の分析を欠かさない。すべてはチームが勝つため、投手に不安なく投げてもらうため、だ。そんな日々の姿を見ているからこそ、メジャーリーグで最多セーブを獲得した実績のあるオスナもリスペクトするのだ。
オスナは「自分が今まで一緒にやってきたキャッチャーの中でも、一番と言っていいくらい技術が高いキャッチャーです」とも語っていた。甲斐は「そうやって言ってくれるのは嬉しいですね」と心から喜んでいた。レギュラーシーズンは残り2試合。ポストシーズンを含めても残りはわずか。尊敬し合う甲斐とオスナの“ハグ&抱っこ”を1回でも多く見たい。