どうせアウトなら「行っちゃえ」 経験、洞察、判断…周東佑京が語る“2度の神走塁”

25日のロッテ戦で二盗を決めたソフトバンク・周東佑京(右)【写真:荒川祐史】
25日のロッテ戦で二盗を決めたソフトバンク・周東佑京(右)【写真:荒川祐史】

25日のロッテ戦で7回に二盗、ダブルスチールでの本盗を立て続けに成功させた

 見る者全ての度肝を抜いた走塁だった。25日に敵地ZOZOマリンスタジアムで行われたロッテ戦。ソフトバンクの周東佑京内野手が見せた2度の“神走塁”は衝撃的だった。文字通り、見事に足でロッテ守備陣を掻き回した。

 3点リードして迎えた7回の攻撃。1死から中前安打で塁に出た。続く上林誠知外野手の打席。いきなりスタートを切った初球はファウル。2球目の直前、左腕・小島はまず素早く足を上げて一塁に牽制を投じた。今度は2球続けて、ゆっくりと足を上げて牽制。ここで周東は二塁へ盗塁のスタートを切った。

 普通なら慌てて一塁へ戻ろうとするものだが、周東は躊躇なく、スピードを上げた。小島の牽制球を受けた一塁の井上が懸命に二塁へ送球。ただ、それよりも早く、周東の足は二塁ベースに届いた。まさかの形での今季34個目の盗塁を成功させた。

 上林の右前安打で三塁へと進むと、再び“神の足”が炸裂した。柳田悠岐外野手への3球目の直前、小島の牽制に誘い出されるように上林がスタートを切る。再び井上が二塁へ送球した瞬間、周東は本塁に向けてスタートを切った。頭から飛び込むと、送球よりも僅かに早くホームベースに触れた。

 ファンの度肝を抜いた周東の2度の好走塁。これを成功させた背景には周東の観察眼と判断力、そして思い切りの良さが隠されていた。

 まず、1つ目の盗塁となった、牽制に誘い出されながらの二盗だ。なぜ周東は躊躇なく二塁へと突き進んだのか、こう語る。「足を上げたから走りました。同じ牽制はしないと思ったので。1個前に早めの牽制が来ていたので、足を上げたら行こうかなと。牽制するなら足を上げると思っていました」。直前の1度目の牽制が布石。牽制をするなら足を上げる――。そう狙って、スタートを切る準備を整えた。
 
 相手は左投手の小島。一塁ベースに顔を向けてセットポジションに入る左腕は一般には盗塁しにくい、と考えられている。ただ、牽制の際にクルッと回って投げる右投手に比べ、足を上げて投げる左投手はボールが一塁に届くまでに僅かながら時間がかかる。周東の狙いはそこだった。

「左投手は(投げるまでに)時間がかかりますし、仮に牽制が来てもいいかと思って。『あー』って思いましたけど、止まったら絶対にアウトなんで行っちゃえ、と。止まってもアウト、行ったらアウトになるかセーフになるか。だったら行った方がいい」

 ホームへ生還したダブルスチールも、経験に裏打ちされた判断力の賜物だった。あの場面、ベンチから重盗のサインは出ておらず、上林に“早めに二塁へ走ってくれ”という指示が出ていただけだった。3球目で上林がスタート。一塁手の井上が送球に難があることも成功を後押しした。

「誠知が挟まれてから行くのはタイミングは難しい。だったら一発目で行った方がいい。一塁から二塁までの距離が一番遠い状態だし、時間もかかるかな、と思ったので」

 挟殺プレーになると、野手は塁間で走者を追いかけるため、野手の距離は縮まっていく。最も野手間の距離が遠く、送球が届くまでに一番時間がかかるのは、まさにこの瞬間。狙い澄ましてスタートを切り、そして狙い通りに本塁を陥れたのだった。

 もちろん周東の類まれな脚力があってこそ為せる技ではある。ただ、それだけでは成功しない。経験、洞察、判断……。プロフェッショナルとしての全てが詰まった“魅せる走塁”だった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)