チームを激震が襲う中で、チャンスをつかもうとしている選手がいる。ソフトバンクは16日からの日本ハム戦(エスコンフィールド北海道)を1勝2敗で終えた。16日には「特例2023」で今宮健太内野手、中村晃外野手らが登録抹消となった一方で、スタメン出場しているのが川瀬晃内野手だ。18日には2安打を放ち勝利に貢献。堅実な守備と、しぶとい打撃でチームの力になろうとしている。
チームは18日に勝利したものの、優勝の可能性が完全に消滅した。クライマックスシリーズ(CS)に照準を移す中で、川瀬にとっては貴重なチャンスだ。今宮と言う絶対的なレギュラーがいるが「もちろんレギュラーを目指していますけど、与えられた立場で結果を出せば自ずと試合に出る機会も増えると思う。穴を埋めよう、とか、そういう余裕はない」と、自分の立ち位置と、期待される役割を強調していた。
今季は開幕から1軍入りし、90試合に出場して打率.212。打席の中でファウルで粘るなど、とにかく献身的な姿勢が誰よりも目立っている。それだけではなく、状況に応じて積極的に手を出したり、課題であるはずの打撃面でも、打席の中で何かを起こそうという意識が表れている。野球というスポーツは、華がある選手が全てではないと信じているからだ。
「試合が動いている時は、何かを動かしていきたい時はセーフティバントの構えをしたり。僕がいろんなことをするのは、試合の流れを読みながら1打席1打席立っているので。ヒットを打つのが一番いいですけど、自分を犠牲にしてでもセーフティをしたりとか、そういう選手がチームに絶対に必要。野球っていうスポーツは流れがある。1球でも多く投げさせれば次の打者の入りとか、先発を早く降ろさせるとか。回を追うごと予想しながら自分でもやっています」
2015年のドラフト6位で入団したが、入団時は体も細く、初出場を果たしたのは3年目の2018年。8年目を迎えた今季、90試合出場はキャリアハイを更新している。打撃が引き続き課題であることは本人が一番わかっているはず。守備でも「華やか」より「堅実」という表現がぴったりな選手だ。そんなスタイルを、誰よりも自分自身が自覚しているから、川瀬からは“味”がにじみ出る。
「一番は、今ホークスにいない選手。たとえばギータさん(柳田悠岐外野手)ならホームランを打ったりとか。ホークスにいない選手になろうと思って。ファウルを打つ選手もあまりいないと思うし、セーフティを絡めていく選手もあまりいない。1人そういう選手がいたら相手も嫌がると思いますし、そういう時が来たら『使ってやろう』という首脳陣の方もなると思うので」
派手さはなくとも、渋い役割を果たす選手が必要な時は必ず来る。だからこそ川瀬も「周りと比べて、変わっていることじゃないですけど。そういうことを僕はやらないと」と力強く続ける。「自分のプレーをする」と発言する選手が多い中、川瀬があえて周囲と比較して、自分だけの居場所を見つけ出している。プロ野球選手として、立派すぎる生き残り方だ。
7月中旬の出来事。牧原大成内野手が川瀬のオレンジ色のバットを使って打席に立っている時期があった。それも「朝のアーリーワークで『これ、いい』と言ってもらったので。『ぜひ使ってください』って」と、こんなところからも献身的な姿勢は伝わってくる。オレンジというカラーリングも周囲と違いを見せたいという意識の表れで、「自分の今年の色がオレンジだったのと、誰も使っていない色がいいと思った」と言う。
尊敬するのは、かつてホークスでプレーし、今は楽天で2軍の打撃コーチを務めている川島慶三コーチ。いぶし銀な働きで何度もチームを救い、明るいキャラクターは太陽のようにチームを照らしてきた。川瀬も「慶三さんは自分が入った時から活躍されていた。一番目に付くじゃないですけど、ずっと見てきた存在なので。このタイミングでこういう声を出した方が、投手もチームも盛り上がるんだっていう言葉も、僕は聞きながら見ていた」と、追いかけ続ける背中だ。
現在、野手の最年長は柳田。キャプテンとしてチームを引っ張る姿を川瀬も当然、見ている。「柳田さんや今宮さん、中村晃さんも、見ていてちょっと周りの選手とは違う。そういう選手に僕もなりたい」と、それぞれのリーダーシップはしっかりと感じ取っている。CS進出へ、終盤戦。チームの勝利はもちろん、先輩が見せてくれる全てが、自分の勉強になる時期だ。
今年、26歳になった。中堅に差し掛かる世代でも「慶三さんもそうでしたけど、ベテランと呼ばれる方でも人一倍、声を出していた。そういう人を見てきたので、年齢って関係ないのかなと思います」とキッパリ言い切る。楽天戦で連敗し、0.5ゲーム差にまで迫られた。苦しいチーム状況は、誰もがわかっていること。だからこそ、全力で戦う選手の一瞬一瞬を見逃さないでいてほしい。