代打を出された心境は、どんなものだったのか。8日の楽天戦(PayPayドーム)。ソフトバンクの中村晃外野手は、チャンスで巡ってきた8回に打席に立つことはなかった。今季初めて代打を告げられ、ベンチが選んだのはウイリアンス・アストゥディーヨ内野手だった。
1点を追う8回1死二塁のチャンスで、楽天ベンチからは左腕の鈴木翔が送り出された。続く柳田悠岐外野手は見逃し三振に倒れ、打席には6回に同点の16号3ランを放っていた近藤健介外野手。3ボールになったところで、申告敬遠で歩かされた。長打なら一気に逆転の2死一、二塁で、中村晃に代わってアストゥディーヨが代打で登場。バットをへし折られて、力のない遊飛に倒れた。反撃の芽は摘み取られ、9回にダメを押されて3-9と大敗した。
中村晃は今季、開幕から好調を維持してきた。しかし、7月打率.237と下降線に入ると、8月打率.125と急降下。対右投手は打率.280に対し、対左投手は打率.246。相性の良し悪しは数字にも表れていた。打者にとって“代打を出される”のは、悔しい采配。それでも真っ直ぐに現実を受け止めた。
「それは監督が決めることなので、僕が何かを言うあれではないです。打っていないので、仕方ないです」
表情を変えることなく、冷静に言葉を発した。自身の状態についても「悪いでしょう。悪いというか、わからないです。ヒットが出ていないので。数字的にも下がっていますし」と言う。暗中模索の夏。復調の兆しも「わからないですね。わかったら打てるようになっている」と、どこまでも本音で、自分自身と向き合う。何よりもその姿が、中村晃らしい。
首脳陣の目には、どう映っているのか。現役時代には自主トレをともにするなど、もう何年も中村晃の打撃を見守っている長谷川勇也打撃コーチは「これだけ経験を積んでいる打者ですから、このままでは終わらないと思う。いい感覚が出る方法は一緒に考えていかないと」と期待を込める。その上で、もがいている姿は、長谷川コーチにも伝わっている。
「自分の中で決めたことを頑張ってやっていた感じはします。悪いなら、悪いなりになんとか粘って、逆方向に打とうとか、そういう気持ちは見えたので。今持っているものの中で、チームの力になるためにっていう姿はあったので。スタメンで出ている以上は『ダメだから打てません』じゃダメ。今持っているものでなんとかしようっていうのがレギュラーの責任。そういうのはわかっている選手ですから」
不調が続いても、試合は待ってくれない。長谷川コーチも「試合の中で調子を上げるっていうのは難しい」と現状を理解する。特効薬はない。「辛抱して、晃の一番の持ち味である選球眼を今は武器にして戦っていければ、感覚が良くなってきた時にヒットを狙えると思う」。この日、中村晃は2回1死の第1打席で四球を選んだ。辛抱して、球筋を見極めること。明確なテーマを持って練習することが復調への近道になると、コーチとして背中を押す。
「タイプにもよりますけどね。“イケイケどんどん”でがむしゃらに振っていって、うまくいく選手もいるんですけど。僕はずっと晃を見ていて、そういうタイプではないですから。なりふり構わずにガンガン振っていくとかではなくて、打てるボールと打てないボールを見ていく好球必打のバッター。調子が悪い中でも仕事ができる選手なので。練習だったりの中で自分で反省して、明日に繋げてくると思います」
間違いなく、中村晃は今季のホークスを引っ張ってきた選手の1人。チームが苦しい時には、選手を集めて決起集会を開催するなど、グラウンドの内外で存在感を放ってきた。誰よりもホークスを愛する男。自分自身が上昇気流を描くことで、チームの勝利に貢献したい。