■他球団の選手でも助言を求めに…木下さんが愛された前のめりな姿勢
今でも、間違いなくナンバーワンのストレートだと思っている。元中日投手の木下雄介さんがこの世を去ってから2年が経った。かつてともに戦ったソフトバンクの又吉克樹投手は、時が過ぎる早さに驚く。溢れんばかりの気迫で、めいっぱい右腕を振っていた球友の姿を、忘れることはない。マウンドで放っていた凄みを、多くの人に伝え続けていきたいという。
木下さんは2016年育成ドラフト1位で四国IL・徳島から中日に入団。最大の武器は、150キロを超える真っ直ぐだった。チームでは数少ない速球派。通算では40回2/3を投げて、イニング数を上回る48奪三振。プロ2年目の開幕前に支配下登録を勝ち取った。又吉にとっては驚きはなく「『こいつなら(支配下に)なるだろうな』っていう方が強かったです」。それほど凄みのある直球を投げ込んでいた。
裏表ない性格で、豪快に笑う関西人。同じ独立リーグ出身の又吉にとっても、気の置けない後輩だった。「(当時チームメートの)木下拓哉とか、柳(裕也)とか京田(陽太)とかも含めて、すごく先輩後輩に愛されていたなっていうのは思います。実際、野球に対しての取り組み方だったり選手の面倒見の良さだったりっていうのは、誰もが知っているところだったので」。そんな人柄に負けじと魅力的だったのが、マウンドから放つ豪速球だった。
「いまだにあいつの真っ直ぐは、僕が見てきた中でもずば抜けていると思います。1軍の打者が、真っ直ぐが来ると分かっていても真っ直ぐで空振りさせられる投手だったので。変化球も含めて空振りを取るのならわかりますけど、あいつの場合は真っ直ぐが来ると分かっている状態で空振りを取っていた」
ホークスでも、150キロ超の直球を投げる投手はたくさんいる。甲斐野央投手、杉山一樹投手は最速160キロだ。それでも又吉は「真っ直ぐを見ていて、あいつ以上の投手はいないですね」とキッパリ言い切る。「僕は近くで見たことはないですけど、(デニス・)サファテみたいな真っ直ぐだった。本人もすごく憧れて、話を聞きに行ったっていうのは聞いたことがあったので」。上達のためなら他球団の選手でも助言を求めにいくような前のめりな姿勢も、愛された理由のひとつだった。
又吉は今季序盤の4月22日に登録を抹消された。直球の球威を求めてファームでの時間を過ごし、7月25日に昇格。自分自身も追い求めたからこそ「特に1軍になれば思いますね。いくら真っ直ぐが良くなっても、僕はコンビネーションで抑える投手ですから」。直球で押していく難しさを身をもって体感しているところ。急逝から2年が経っても、木下さんから教わっていることばかりだ。
身を削ってでも、右腕を振り続けた。木下さんは2021年3月21日、日本ハムのオープン戦(バンテリンドーム)で、投球時に右肩を脱臼。痛みに顔を歪め、その場でうずくまった。常に故障と隣り合わせにいる投手として、又吉はその覚悟に身震いした。「肩が抜けるくらいの腕の振りって、できないですよ。出力的にも相当だと思います。しかもそれ(肩が抜けやすいの)を分かって、トレーニングもしていたので」と振り返る。
「木下の真っ直ぐは、綺麗なのじゃなくて“突き刺さる”というか。キレとかで言うなら昔のダルビッシュさんとかを見たらすごいなって思うんですけど、木下は球の強さがすごいってイメージでした。『こいつはこの真っ直ぐで飯を食っていくんだな』って思ったのは、あいつが初めてかもしれないです」
ホークスは8月になっても苦しい戦いが続いている。ブルペンから少しでも貢献しようと、又吉も腕を振り続けている日々だ。木下さんの存在が、マウンドに立つ理由のひとつ。結果を出し続けることで、少しでも亡き友の“凄さの証明”にもつながってほしい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)