なぜ、いまだファームで0本塁打? 「なんか違う…」渡邉陸に起こっていた異変

ソフトバンク・渡邉陸【写真:竹村岳】
ソフトバンク・渡邉陸【写真:竹村岳】

2軍戦で46試合に出場して打率.248…27安打で25本がシングルヒット

 長所である数字が、まだ動き出してすらいない。シーズンを折り返そうとしている中で、どんな“異変”が起こっているのか。ソフトバンクの渡邉陸捕手は、現状の状態に「最近は結構、充実していて、試合でもバッティングの感覚はいいものが出てきています」と語る。苦しんでいた打撃が、ようやく上向き始めたことで、表情も晴れやかだった。

 昨季、衝撃的な1軍デビューを飾った。5月28日の広島戦(PayPayドーム)でプロ初スタメンを飾ると、野球日本代表「侍ジャパン」への選出経験もある森下から2本塁打。“打てる捕手”の誕生だとファンの誰しもが疑わなかった。結果的に2022年シーズンは20試合に出場して打率.273、3本塁打9打点。試合数こそ少ないものの、打力は1軍で通用することを結果で示したはずだった。

 迎えた2023年。ウエスタン・リーグでここまで46試合に出場して打率.248、5打点。本塁打は、いまだ0本だ。4試合ではあるが、3軍戦でも16打席に立って0本。今季の公式戦ではアーチを描けていない。さらなる成長曲線を描くはずだった今季、渡邉陸に何が起こっているのか。

「開幕して僕も思っていること。ホームランだけじゃなくて、そもそも長打が少なくて、バッティングフォームというか、パワーを生み出せるスイングになっていないのかなって。あとはタイミングが、今まで『なんか違うな』『なんか違うな』って中でやってきて。力強いスイングができていないことで(ホームランが)出ていないのかなと思います」

 ウエスタン・リーグでは27安打を放ち、二塁打が2本、三塁打は0本。つまり単打が25本を数える。本塁打は結果的に打てるもの。重要なのは、そもそも長打を狙っていないのか、意識の中で長打を欲しているにも関わらず打てていないのか、どうかだ。渡邉陸も「そこが難しいですよね……」と神妙な面持ちになる。少しの焦りと、自らの実力不足が原因だと分析する。

「ホームランをバンバンと打つバッターとは思っていないですけど、やっぱり二塁打とか外野の頭を越えたりっていうところは、僕の持ち味だとは思う。そう思うと、やっぱりまだまだ足りていないのかなって思っています」

「自分の中でも結果が出ていなかったので、割り切りだったりっていうのがあまりなくて。とりあえずヒットが欲しいってところから始まるので、それでちょんちょんっていうバッティングになっているのかなって思います。今はだいぶ、いいタイミングで、いい時の間(ま)っていうのがあるので。打球の速度も変わってくる感覚はあります」

 打率.248という結果も踏まえて「率が残っていないから、そうなっているのかなっていうのはあります」という。開幕以降、数字が上がらずに苦しんだいた中で、自然と打撃も小さくなってしまっていたようで「僕の感覚やったら、これから出てきそうやなっていうものが、あるにはあります」。本人がこう言うのだから、信じて待つしかない。

 1軍はもうシーズンの半分以上の試合数を終えた。オールスターも間近に迫り、後半戦も始まっていく。渡邉陸は18日に富山で開催されるフレッシュオールスターにも選出されている。「フレッシュを区切りに、もう後半戦なので、早く1軍に上がりたいのはあります」と、今シーズンを諦めてはいない。

 そして、今の渡邉陸には大切にしている意識がある。

「『早く1軍に行きたい』って思って結果が出なかったら『わ、もう無理だ……』って思っちゃうじゃないですか。だから今は、そこも大事ですけど、上でレギュラーを取るためにって考えれば、毎日結果が出なくても、気持ちの部分とか取り組みとかを意識していれば、それがいい形につながると思う」

 今季が5年目で、9月には23歳となる。「一喜一憂していてもシーズンは長いので、やるべきことを毎日やろうと今は思っています」。悲観的な言葉ではない。いつか1軍の太い柱になるために、必死に自分自身と向き合い続けている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)