椎野新を突き動かす斉藤和巳コーチの存在 心に響いた失意の底でかけられた言葉

ソフトバンク・椎野新【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・椎野新【写真:藤浦一都】

伝え続けてきた“勝負する勇気”…8日の楽天戦で今季初登板

 強い気持ちを結果で示してみせた。今季2度目の同一カード3連敗を喫した7日からの楽天3連戦(楽天生命パーク)。先発投手が試合を作れずに苦しい展開になる中で、チャンスをつかもうと必死だった選手もいる。8日に行われた第2戦で今季初登板した椎野新投手は、2回1/3を投げて無失点に抑えた。

 先発の東浜巨投手が3回に3点を失う。4回にも2点を失い、なお2死二塁でバトンを受け取った。浅村に投じた初球は150キロでストライク。続く2球目も149キロでファウルだ。フォークが外れ、迎えた4球目。ゾーン内に投じたフォークを右前に落とされた。しかし、フランコを148キロ直球で空振り三振に仕留めて、最少失点でしのいだ。

 5回はピンチを招くが後続を仕留めて無失点。6回も、2死から浅村にストレートを3球続けて空振り三振だ。雄叫びをあげながら、しっかりと任務を完了。ファームで追い求めてきたのは「見てもらえる真っ直ぐ」という圧倒的なもの。緊張の今季初登板でグイグイと押し込むピッチングができたのは、どうしても恩返ししたい人が1軍にいたからだった。

 失意の中にいた時、かけてもらった言葉は今も胸にある。椎野の心を支えたのは、斉藤和巳投手コーチの存在だった。春季キャンプ中の2月25日、野球日本代表「侍ジャパン」との壮行試合で4四球を与えて5失点。激しい競争の中で、キャンプでの成果を結果につなげることはできなかった。キャンプ最終日。斉藤和コーチから言われた言葉が今も自分を突き動かしている。

「真っ直ぐを投げないといけない場面とかあるじゃないですか。『真ん中の真っ直ぐでも打てないことがある。だから思い切って真ん中でもいいから投げろ』と。『気持ちの入った真っ直ぐは真ん中でも打てない』って。僕らの気持ちをマウンドで奮い立たせてくれるような言葉を試合前に言ってくれるので。それはキャンプ中に言われた言葉の中でも自分の中に残っています」

 3割を打てば一流打者と言われる世界。時には勇気を持って、気持ちを乗せたボールを投げることも必要なんだと訴えられた。たとえやろうとしていることが結果につながらなくても、選手を見放すようなことは絶対にしない。斉藤和コーチの愛情は、椎野の心にしっかりと届いていた。「ちゃんと気持ちを伝えてくれるんです。自分が不利なカウントでも強くいられる気がします」と、存在そのものが背中を押してくれる。

 2度の沢村賞に輝いたかつてのエースが今は指導者となった。現役時代の輝かしい姿は、新潟にいた椎野も印象深く覚えている。「めっちゃYouTubeとかで見ていました。特に真っ直ぐがエグかったです」と振り返る。新潟でほとんどのテレビ中継が巨人戦だったというが、それでも椎野にとって斉藤和巳は“ヒーロー”だった。

 ゾーン内で“勝負する勇気”は、斉藤和コーチが就任してから何度も投手陣に伝えてきたこと。「結局、バッターなんて打っても3割なんやから。その勇気さえ持ていれば、いい方向に行く可能性の方が確率論的には高いからね」という。当然、打たれることだってある。だからこそ「理由づけはちゃんとせな。試合の状況とか相手と自分の相性、そういうのを引っくるめて1球1球を投げていかないと。それが配球なんやから」。勇気を持つためには最善の準備が必要。全てがプロとして不可欠な要素だからこそ、斉藤和コーチは伝え続けている。

 椎野が開幕1軍に入れなかった時も、斉藤和コーチは連絡をくれたという。熱い言葉は今も心を燃やし続け、絶対に恩返しするんだというモチベーションになっている。リバン・モイネロ投手が登録抹消となっている今こそ、ブルペンが一丸になる時。チャンスは限られているとしても、マウンドに上がる椎野には必ず“勝負する勇気”がある。

(竹村岳 / Gaku Takemura)