若鷹育成に最先端機器を取り入れた。日本球界を代表するエースすら“再現”してしまう打撃マシンだ。ソフトバンクの2軍は11日、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で全体練習を行い、小久保裕紀2軍監督の指示のもと「2時間半くらい」に及ぶバッティング練習を行った。その裏には最新鋭ピッチングマシンの存在があった。
7月も中旬に差し掛かり、2023年のシーズンも折り返しを迎えようとしている。2軍はウエスタン・リーグで38勝31敗4分けの2位にいるが、チーム打率.234はリーグワースト。小久保2軍監督も「チーム打率もそうですし、個々にしても3割を打っている選手がいない。3割も打ったら1軍に呼ばれるんでしょうけど」という。規定打席に到達している選手では、増田珠外野手の打率.260がチームの中で最高だ。
そんな2軍で最新鋭機器による練習が行われている。5月に球団が購入した最新鋭ピッチングマシン「iPitch」だ。この日、2時間半もの間、打撃練習に向き合ったのもこれが理由だった。「球団が購入したものなので最大限、効率よく利用するのはどうしたらいいのかも考えています」と小久保2軍監督。どんな狙いを持って使用しているのか、そしてどんな効果を発揮しているのか。指揮官が語った。
従来のピッチングマシンならボールの回転数や回転軸をコントロールすることはできない。一方で「iPitch」はボールの回転数や回転軸を自在に変えることができ、指揮官は「(球種の)ミックスもできる」と言う。この日は「2軍の投手の平均値にしています。145キロくらいと、スライダーとカーブと、フォークもあるかな」と設定。実戦に近い練習ができるように導入された。
「iPadでデータを打ち込んだら全投手の(球を)再現できる。スライダーは、違う成分が入るので難しいですけど。真っ直ぐ、フォーク、チェンジアップやったら(再現できる)。この前は山本由伸(オリックス)をやったんですけど。『iPitch』っていうのがどれだけすごいのかをわかってもらうために(山本由伸)に設定してやりました」
トラックマンやラプソードといった機器で、ボールの回転数も回転軸も細かく計測できる時代。その数値があれば、山本由伸が投げるボールも再現できてしまうというのが「iPitch」だ。「10人で4回りくらいしてヒット2本くらいしか打っていない。でも、そんなもんですよね。ヒット数って(1軍が山本と対戦しても1試合で)5本、6本じゃないですか。それよりは少ないくらいでした」。数値から再現した“山本由伸”は、やっぱり手強かったようだ。
早速、効果が表れている選手もいる。3年目の笹川吉康外野手について、小久保2軍監督は「この練習を始めてから確実に空振りが減ってきている」という。笹川はここまでウエスタン・リーグで50試合に出場して打率.208、2本塁打12打点。120打数で42三振を喫している。練習や指導法が合うのかは人それぞれだとしても、笹川だけは“強制的”に「iPitch」と向き合わせている。
「彼に関しては、これを使ったドリルを我々が強制的にやらせるようにしている。今日やったヤツらは全体練習なので、(普段は)強制的にはやらせていない。強制的っていうのは吉康だけ。試合での変化は、我々は感じています。本人がどう感じているかは別にして」
投手に対しても、もたらす効果はある。数値をもとにしてボールを操ることができれば、自分の球がどんな軌道を描いているのかを確認できる。自分の球を打者目線で見るということも、数値面から言えば可能になる。「使い勝手、幅は広いですよね。自分の球を再現して『あ、こういう反応されるんや』『こういう感じで見えているんや』っていうのもわかる」と指揮官はうなずく。
選手の目線も、球団はしっかりと捉えている。硬球は打ち損じで手が痺れることもある。慣れるまでに時間がかかれば“打つ恐怖”も芽生えてしまうが、小久保2軍監督は「ボールも柔らかいものが購入できたので、打感的には硬球よりは物足りないですけど、コントロールがいいのと、あとは打っていて怖くない。あの練習であのスピードなら、あのボールの方が怖くなくて、いいかなと」と取り組みを代弁する。
1軍の舞台に立たなければ経験できないはずの好投手たちの球。目で見て、体で感じることができるだけでも大きなメリットとなるはず。「すぐに効果は出ないですけど、検証です。こういうのを通しながら、何か選手の成長につながったらいいなというところ」。ファームから1軍へ若鷹が羽ばたいてきた時、その背景には「iPitch」と向き合い続けた日々があるはずだ。