周東佑京の打撃不振は“速過ぎる”から? 長谷川勇也コーチが考える弊害と段階

ソフトバンク・周東佑京(左)と長谷川勇也打撃コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・周東佑京(左)と長谷川勇也打撃コーチ【写真:竹村岳】

長谷川コーチすら「佑京の感覚は難しい」…スピードスターであるがゆえの悩み

“最速の男”にしかわからない領域なのかもしれない。ソフトバンク・周東佑京内野手はここまで60試合に出場して打率.185。1か月近くスタメンはなく、ベンチスタートの日々が続く。「自分の思い描いているようなことができていない」と、練習での取り組みがなかなか結果に結びついていないという。

 長谷川勇也打撃コーチとは、試合前の打撃回りから頻繁に言葉を交わしている。周東自身も、まだまだどういうバッターになっていくべきなのか試行錯誤を続けているといい、首脳陣も手助けできるように言葉を送っている。周東の意識を「強い打球を打ちたいって気持ちはどこかにある」と長谷川コーチは代弁する。その上で強調したのは、選手としてステップを踏む必要性だった。

「それ(強く打ちたいという姿)を見て、まだそこじゃないよとは思うんですけどね。しっかりと安定感のある数字を出して、それを3年、4年続けてから、自分の立場が固まってから、好きなようにできるようになってきてから、ちょっとずつシフトチェンジしていけばいいのになと思って見ています。夢とか願望とか目標を大きく持つことはいいですけど、自分の段階ですよね」

 長谷川コーチの目には、周東は少し“背伸び”をしているように見えているのかもしれない。現役時代に通算1108安打を放った長谷川コーチが、自身の若手時代に最初のステップだったと挙げたのは2つ。「ボール球を振らないこと。あとは凡打の内容をよくすること」。自分なりにレギュラーへの段階を見据えていたからだ。

「(首脳陣に)『あ、ちょっといけるんじゃねえか』って思わせないと。凡打になったとしても、10か0じゃダメなので、5、6、7とか、それなりの内容の凡打ができればいいと思っていた。2年目に1軍に出て『このバッティングだったら行ったり来たりの選手になる』と思ったから、大きくシフトチェンジした。今までの自分の野球人生でやったことのないようなこともトライしたらうまくいって、3割打ったって感じです」

 3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも選出されるなど「足」において周東の右に出る選手は、NPBにはいないだろう。長谷川コーチも、これまで見てきた選手の中でも「速いですね」と“最速”だと認める。現役時代にチームメートだった本多雄一、川崎宗則ら盗塁王の経験のある選手と比較しても「全然速いです」と言うのだから、周東はやはり稀有な存在だ。

 だが、長谷川コーチは“俊足すぎる”ことで弊害があるのでは……と分析する。確かに周東にとって打撃面は最大の課題だが、長谷川コーチはその気持ちを理解しきれていないという。高い身体能力を誇り、唯一無二の脚力を持つ周東にしかわからない“悩み”だ。

「あの反応の速さがあるから、バッティングもそういう部分がちらほら(見える)。反応したくない部分まで反応してしまう。そこは多分、彼の習性というか、本能ではあるので。そこは僕らにはない感覚。佑京には僕はなりきれていない感じはありますね。佑京の感覚に近づこうと思っても、なかなか難しい」

 持ち味であるはずの「スピード」が、ボール球に手を出すなど、打撃においては悪い影響を及ぼしている可能性があると長谷川コーチは言うのだ。周東自身、内野安打を狙うよりも強くバットを振ることを心がけてきたが、その考えには長谷川コーチも同調する。

「内野安打はね、狙って打つものじゃないから。あれも、ちゃんとした打ち方ができているから内野安打になっている。内野安打って運とかじゃないので。野手の動き出し、スタートが切りにくい打ち方で内野安打になる。バットに当てて転がしたから内野安打になるっていう考えじゃない。ちゃんと正しい打ち方をすれば、ミスも内野安打になるって感じですね」

 球界屈指のスピードスターだからこそ、あらゆる面で、誰も歩んだことのない道を歩まないといけない。「運じゃやっていけないです。それなりの理由と根拠がヒットと凡打にはある」と長谷川コーチ。打撃面が開花すれば、盗塁や得点ではどんな数字を残すのか。夢と期待、そして自分自身の人生を背負って、周東はバットを振り続けている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)