17回を投げて3四球…甲斐野央を支える“頭の整理” 「充実している」成長の中身とは

ソフトバンク・甲斐野央【写真:竹村岳】
ソフトバンク・甲斐野央【写真:竹村岳】

月14日のヤクルト戦で自己最速タイの160キロ…甲斐野央が見せる明確な成長曲線

 味わってきた栄光も、苦い経験も、今の自分を支えている。数字にも表れている確かな成長だ。ソフトバンクの甲斐野央投手はここまで17試合に登板して0勝0敗、1セーブ、5ホールド、防御率1.59。特筆すべきは、17イニングを投げて3四球と、課題だった制球力に明確な改善が見られることだ。本人も「成長しているのかな。いい状態が続いているので」と手応えを感じている。その背景に迫った。

 1年目だった2019年は58回2/3を投げて34四球。2021年は20回2/3で10四球、2022年は25回で14四球とイニングの半分近く、もしくは半分以上の四球を毎シーズン与えてきた。今季は開幕を2軍で迎えたが、ウエスタン・リーグでは15回2/3で3四球。「去年の秋から四球を出さないことを目標にやってきた。2軍の時はちょっと減ったくらいだったんですけど。1軍に上がってからは少なくなっている」と話す。

 6月14日のヤクルト戦(神宮)では1点リードの7回に登板して、自己最速タイの160キロを計測した。5回を終えた時点で3-2。リリーフの4投手でリードを守る緊迫した展開だった。出力と制球力という相反するようなものを、少しずつ両立できるようになってきた。それでも甲斐野は、足元だけを見つめる。

「出力は正直、今年は出さないでいいかなと思っていました。あの時(ヤクルト戦)はシチュエーションもシチュエーションでしたし、気合も入りましたし力んではいたんですけど。その中でも1つポイントだと思っていることは絶対に崩さないように。あとはアドレナリンで、なんとか出たような感じでした」

 7月5日の日本ハム戦(PayPayドーム)では8回に登板し、157キロもありながらも、153キロを計測するシーンもあった。この日は4点リードで「出力を出すつもりはなくて、拓さん(甲斐拓也捕手)が構えたところに投げるっていう意識だけでした。展開も4点リードでしたし、ダメなのはランナーをためることでしたから」という。153キロは“出ていない”のではなく、意図的に“出していない”ような状態だったわけだ。

 試合の展開や点差を踏まえて、頭を整理してマウンドに立つ。その状況において最善を考えて投球ができるようになってきた。「それ(整理できていること)がデカいですね。経験がありますから、他の若い投手よりは。1年目にもいっぱい投げさせてもらえたので。そこが生きてきています」。2020年には右肘の手術を決断するなど紆余曲折を経て、今季が5年目。全てが自分の武器となり、今年の成績につながっている。

「マウンドに上がった時は打者を抑えることだけを考えています。自分の有利なカウントに持っていきたいですし、もし不利になっても、そこからどう立て直すかっていうのを秋のキャンプから和巳さん(斉藤和巳投手コーチ)と話してきたので。マウンドに上がる前は自分の仕事に専念できるように体調を整えて。上がったら打者を抑える。そのことだけを考えてやっています」

 もちろん、向上心が突き動かす姿勢も甲斐野らしい。今季与えたのは3四球。取材の中で「ちょっとまだ、3つとも無駄な四球だったので」と自ら切り出す。そして「あ、1個はあれか。ランナー二塁から一、二塁を作ったので、2つ。2つもったいなかった」という。17イニングとはいえ、自分が四球を与えた場面がしっかりと頭に入っていた。

 甲斐野が回想した2四球。1つは6月15日のヤクルト戦。7回に登板して、先頭の山田を歩かせた。もう1つは7月1日の西武戦(ベルーナD)の延長10回。1死から呉念庭に与えたものだ。どちらの試合もチームは勝ったものの「呉さんのやつとか、もったいなかったですよね。まだ四球を出さないっていうのをやり始めたばかり。いきなりうまくいくとも思っていないです」と、ここでも足元を見つめた。

 出していい四球と、出してはいけない四球。数を見るだけで全てを測ることはできないが、甲斐野自身は数そのものを減らすことにこだわっている。「僕はそこが大事。そこが一番『こいつ練習頑張ったんだな』って思ってもらえることだと思う。出力を上げてもストライクが入らないんじゃ、チームにも今後の僕にとっても良くない」。少しずつ増してきた存在感。今のブルペンにとってはもう、欠かせない投手の1人だ。

 1年目には65試合にも登板した右腕。その姿と比較しても、中身は全く違っている。「すごく充実している感じはあります」と話す表情は、自信にみなぎっていた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)