満面の笑みで頭をポンポン…斉藤和巳コーチが板東湧梧にベンチでかけた言葉と笑顔の理由

勝利を挙げたソフトバンク・板東湧梧(左)と斉藤和巳コーチ【写真:竹村岳】
勝利を挙げたソフトバンク・板東湧梧(左)と斉藤和巳コーチ【写真:竹村岳】

今季3度目の先発登板…斉藤和巳コーチの存在に「褒めてもらえてよかった」

 格別の味がする勝利だった。ソフトバンクは5日、日本ハム戦(PayPayドーム)に5-1で勝利した。先発した板東湧梧投手が7回1失点の好投。アイシングをしながらヒーローインタビューに選ばれて「やっとチームに貢献できた。和巳(斉藤和巳投手コーチ)さんに褒めてもらえたのでよかったです」と胸を撫で下ろした。降板後、斉藤和コーチが満面の笑みで声をかけた理由とは。

 立ち上がりからカーブを多投した。初回2死には松本にカーブを左前打とされたが「拓さん(甲斐拓也捕手)に『今日はいっぱい使っていこう』という話をしていた。打たれても単打はOKという気持ちで投げ込みました」。勇気だけは失わずに、4日に10得点した日本ハム打線に立ち向かっていった。5回以降は走者を許すことなく、尻上がりの内容を見せたことも収穫だった。

 6月15日のヤクルト戦(神宮)、25日のオリックス戦(PayPayドーム)で2度先発したが、ともに5回持たなかった。「気持ちはずっと攻めようという気持ちだったんですけど、技術的にうまくいかない部分があった。そこは前回よりも進歩していると思う」と心境を振り返る。この日、7回を投げ切った後、斉藤和コーチがクシャクシャの笑顔で頭をぽんぽんと叩いた。選手を信じる指導者として、喜びを感じられる瞬間だったからだ。

「そらそうやろ。あそこまで投げてくれたら嬉しいやんか。色々事情が苦しいところもあったんやから。やっと先発で1勝できたっていうのは、あいつが一番嬉しいんじゃない? 先発をやりたかったんだから。今からその数字(15勝)っていうのは難しいと思うけど、違う数字を見つけて頑張ってくれたらいいんじゃないかな」

 7回で99球での降板となった。板東はベンチ内でのやり取りについて「球数を知らなくて、もちろんいける感じもしていたんですけど。『もう十分だろ』って言われてしまって、自分でも『はい』って言っちゃいました。振り返ってみたらまだ行きたかったです」と苦笑いで明かす。中6日で12日の西武戦(北九州)に登板する見込みなだけに、次回登板を見据えての降板だったが、首脳陣の言葉に押し切られてしまうのも板東らしかった。

 斉藤和コーチは、6回もベンチで言葉を交わした。「一番しんどいところだったから。こっちとしてはもう1イニング行ってほしかったし。『疲れたんちゃうやろな』って言って『大丈夫です』って言わせる空気を作った(笑)」と内容を明かす。もうひと踏ん張りしてくれたことにも「監督が『もう1イニング行かせるか?』って言ってくれたんですけど、自分がやめときましょう、と。板東もいい形で終わらせたかった」と続けて説明した。

 昨オフから先発1本で勝負がしたいと公言し、シーズン15勝を目標に掲げてきた。起用を決めるのは首脳陣であり、チーム事情も影響する。結果的に先発では、これが3度目のチャンスだった。「俺が我慢したわけじゃないからね。最後は監督が信用というか、使ってくれたから。どうにか頑張らせるのがこっちの仕事」と斉藤和コーチ。信じてマウンドを託した選手が、結果で応えてくれたことが何よりも嬉しかった。

 板東と斉藤和コーチは先発登板を“約束”していた。開幕ローテーションから漏れ、ブルペンを支えることになった時。そして6月2日の広島戦(マツダスタジアム)で3回無失点に抑え、改めて言われた。「『お前の先発プランは考えているから』って言ってもらって。『いよいよあるんだな』って、またスイッチが入りました」。オフの15勝の約束に始まり、先発の約束、我慢した先発起用……。全てが満面の笑みにつながった理由だった。

 今季ではこれが3勝目で、先発では初勝利。「先発で勝てたっていうのは自分の中ですごく意味がある。15勝っていうのはあれかもしれないですけど、意味のある1勝だったと思います。嬉しいですし、なんとか勝つことができてホッとしています」。板東が見せた先発としての可能性は、苦しい夏場を必ず助けてくれる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)