「オファーは多い」もあえて露出を“制限”する理由…西田哲朗広報が見る中村晃の“生き様”

ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】

西田哲朗広報が語る6月の戦い…11勝7敗の交流戦で変わったチームの雰囲気

 3年ぶりのリーグ優勝を目指すホークスは、セ・リーグとの交流戦を11勝7敗と勝ち越し。6月の戦いを14勝8敗で終え、一時は首位にも立つなど、少しずつ息を吹き返してきた。チームを見守っている西田哲朗広報は「チームとしては、良かったんじゃないですかね。これに負けたらズルっていきそうな時に負けなかった」と印象を語る。

 西田広報が存在の大きさを語ったのが中村晃外野手だ。6月の月間打率は.287で、5月13日から1番打者として先発が続いている。6月を終えて78安打はリーグトップ。「もともと言葉には出さないですけど、背中で引っ張るというか……。そういう人が結果でも示しているのは、チームとしても僕ら裏方にとっても大きいですよね」と西田広報は言う。結果がついてくることで、言葉にも姿勢にも重みが増す。寡黙ではあるが、結果を出すことが中村晃にとって何よりのリーダーシップだ。

 6月17日の阪神戦(甲子園)、中村晃は9回2死一、二塁で左中間に逆転の2点適時二塁打を放った。あとストライク1つでゲームセットというところからの逆転劇でチームを勝利に導いた。西田広報も、交流戦からチームの雰囲気が変わったと感じており「今年はああいうところで勝ち越しの1本が出ている。1勝、2勝の重みっていうのが後半戦になって出てくるんじゃないですかね」と予感している。“あと1勝”で優勝を逃した昨季の悔しさを、しっかりと抱いて戦っている。

 今季の中村晃は、活躍の割に、メディアへの露出にはかなり慎重な姿勢という印象がある。メディアと選手の間に立つ西田広報も「そうですね。オファーは多いんですけど」と認める。どの選手でも同じだが、西田広報なりに細心の注意を払ってメディアとの距離感を保っている。

「(晃さんは)1日の中でルーティンも非常にしっかりとされている。やっぱり絞ってというか、ルーティン、コンディションを崩すというのは僕としてもやりたくないんです。時間を見つけて、3連戦があったらどこか1つでハメられたらなって調整もしていて。それも前もって、数日前からアプローチをかけてインタビューを調整している感じです」

「晃さんもベテランの域に入ってきているし、体も毎日治療しながら、コンディションを整えながらっていうのをやっている。それを僕らも見ているので、そこを崩すっていうのは違いますし。その辺は難しい判断なんですけど、僕らなりに晃さんと相談をさせてもらいながらやっています」

 2021年は打率.245、2022年は打率.253に終わった。体調管理を徹底し、復活を遂げようとする姿勢を西田広報も見ている。テレビのインタビューやペン記者用の囲み取材で広報は隣に立ち合う。ある意味では誰よりも、選手の言葉と考えを聞いているのが広報だ。西田広報なりに感じているのは“順応する勇気”だという。

「今年明らかに構えも打ち方も変わっている。あの年齢になって打ち方を変えるっていうのは本当に勇気がいる。僕やったら『打てていた時に戻りたい』っていうのがある。そこに近づけようってなるのかもしれないですけど、柳田(悠岐)さんを見ていてもそうですが、体の変化っていうのはあるわけで。そこに順応している、順応させる勇気があるんだなって、インタビューを隣で聞いていて思いますね」

 西田広報は昨オフ、栗原陵矢外野手を交えて中村晃と食事をともにした。「プライベートなので、僕は野球の話をガッツリして、その人がどうか(知る)っていうよりは、普通に会話をしていて些細なことでも『こういうふうに考えているんだ』っていうのを感じます」。自分なりのスタンスで見る中村晃という先輩は、どんな人なのか。

「いい意味で、本当に野球人としてのあり方をずっと考えている人。野球選手としてはこうあるべきだ、というのを常に信念深く持っているというか。1つの行動を大切にしないとダメ、チームとして動いていることを自覚して行動する人。福岡ソフトバンクホークスのレギュラーとしての自覚がすごくある人だと思います。行動、発言1つにしてもレギュラーとして今どう振る舞うべきかっていうのを、常に考えているんじゃないですかね」

 言葉で多くを語らずとも、グラウンドでのプレーに生き様が表れる。そんな中村晃だから、ファンの誰しもが今季の完全復活を待ちわびている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)