“イチかバチか”だった衝撃の同点犠飛 “神の足”周東佑京が明かした勇気と技術

ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

「勝負をかけるところかなと思ったので、アウトでもセーフでも行こうと思いました」

 技術と勇気の詰まった“神の足”だった。1日にベルーナドームで行われた西武戦。延長戦にもつれ込む激戦を制したソフトバンクの中で、異次元のプレーを見せたのが周東佑京内野手だった。1点ビハインドの場面で浅いセンターフライでタッチアップを成功させて試合を振り出しに戻し「勝負をかけるところかなと思った」と振り返った。

 序盤に4点を先行するも、2点リードの7回に松本裕樹投手、大津亮介投手が3点を失って逆転を許した。その直後の8回、先頭の柳町が左前安打で出塁すると、すかさず代走として周東が送られた。栗原陵矢外野手が初球を打って右前安打として無死一、二塁に。今宮健太内野手が犠打を決めて二、三塁となり、代打の野村大樹内野手が打席に入った。

 その初球、右腕・森脇が投じた外角のフォークを捉えた打球はセンターへ。浅い飛球だったが、周東はすかさずタッチアップの態勢に入った。「浅かったんで……。でも勝負をかけるところかなと思ったので、アウトでもセーフでも行こうと思いました」。セーフになれる確信はなかった。だが、逆転を許した直後にできた千載一遇のチャンス。勝負をかけてスタートを切った。

 中堅の長谷川の送球が少しだけ高くなった。周東は頭から突っ込むと、捕手の古市のタッチより僅かに早くホームベースに手が触れた。横に広がる牧田球審の両手。「セーフだと思いました。手が入ったと思いましたし(セーフの)確信はありました」。沸くベンチに笑顔で戻り、ハイタッチ。西武ベンチのリクエストでも判定は覆ることなく、周東の確信通りに同点のホームインとなった。 

 周東でさえ「浅かった」と振り返るこの打球。藤本博史監督も試合後に「いや止まると思った」と驚きを隠さなかった。点差は1点差で8回の攻撃。このチャンスを逃せば、もう好機はないかもしれない。絶対に1点を取りたい場面だった。「(村松コーチから)ある程度(フライが)上がったら行っていいよ、という風には言ってもらえていた。1点取らなきゃ負けでしたし、行くしかないなと思いました」。勇気と覚悟を持ってスタートを切った。

 スピードはもちろん、タッチをかいくぐる技術もあった。足から滑って回り込むのではなく、ヘッドスライディングで突っ込んだ。「手の方が早いかなと思っているんで。ホームは段差もないし、ギリギリだったら、手の方が残せるんじゃないかと思っています」。左手で触れたのはホームベースの一番右端。「捕手から遠いところに早く行けたら」。捕手からのタッチに最も時間がかかる場所へ、という狙いもある。

 本塁でのクロスプレー。レガースをつけたキャッチャーと交錯するリスクと隣り合わせでも「怖さを気にしていたら代走にはいけないと思ってますし、もう怪我したらしょうがないなっていうぐらいには思っています」とキッパリ言う。「(代走は)点を取るために行ってるので、引いちゃいけない」。足のスペシャリストとしての気概が生んだ、衝撃の犠飛だった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)