「諦めていない」限られたチャンスの中でも…上林誠知が残した“爪痕”とみなぎる自信

ソフトバンク・上林誠知【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・上林誠知【写真:藤浦一都】

楽天を相手に逆転勝利…上林誠知が15日のヤクルト戦以来のスタメン出場

 巡ってきたチャンスに、必死に食らいつこうとしている。ソフトバンクは29日の楽天戦(PayPayドーム)で3-2と逆転勝ちを収めた。8回無死一、二塁で近藤健介外野手が11号逆転3ランを放つなど、主力が存在感を見せた一方で、「8番・中堅」で先発した上林誠知外野手にとっては数少ない先発の機会だった。どうしても爪痕を残しておきたかったのは、上林なりの自信があったからだった。

 2回1死、田中和の打球は左中間へ高く舞った。中堅手の上林は一直線に落下点へ。「けっこう上に打球が上がっていたので、早めにフェンスに着くようにして」。ジャンプ一番で好捕し、先発の大関友久投手を救った。7回2死には相手先発の岸のチェンジアップに食らいついて内野安打。一塁に頭から滑り込み、セーフを勝ち取った。先頭打者から始まった8回に逆転したのだから、上林の1本にも価値がある。

「拓さんも惜しかったし、ああやって塁に出れば何かが起きるので。あれがもう少し飛んでいたらホームランで同点だったし。最後まであきらめないっていう、最近のホークスはそんな感じですね」

 交流戦が終わって以降、上林のほか、川瀬晃内野手や野村勇内野手、三森大貴内野手がスタメンに名を連ねる。牧原大成内野手を二塁と中堅で動かしながら、空いたポジションを日替わりにするような形で戦っている。上林のスタメンは15日のヤクルト戦(神宮)以来で「『やっとか』という感じでした」と、待望の起用だった。

「出たり出なかったりっていうのはめちゃくちゃ難しいですけど、そういう中で打っていくしかない。そこに負けていないと思ってやっているので。結果が全てですから、そこは結果でやっていくしかないです」

「守備での安心感っていうのは自信がありますし、攻撃でも、去年アキレス腱をやってしまったんですけど、そこまで足も落ちていない。今日みたいなヒットもあるだろうし、作戦系であったりもしやすいと思うので。(スタメンで)出たら何かやるよっていうのは常に見せたいですね」

 昨季、右アキレス腱断裂という大怪我を負った。復活を期す今季は、ファンも活躍を期待している。この日は「上林誠知」がSNSでトレンド入り。本人は「なんで?」と驚きの表情だったが、多くのファンが復活を待っている何よりの証だ。一塁へのヘッドスライディングにも「自分、うまいので」と自信を見せる。気持ちをプレーで表現する上林の姿に、ファンの心も動かされたのだろう。

「代打で出た時もそうですけど、神宮で久々に守備に就いた時も声援をくれて。守備に就いているだけなのに。そういう選手もなかなかいないと思うし、それだけ期待してくれている。そういうのは気持ちの救いにもなるし、自分もあきらめていないので。苦しいことの方が多いプロ野球人生ですけど、ここからもう1回輝けるように頑張ります」

 話す表情に、迷いはない。「(ファームの再調整で)1回かなり落ち込んでからまた上がってきて。チームの起爆剤というか。そういう存在になれたらいいなと思っています」。上林が前だけを見るのなら、必ずもう一度、輝ける。

(取材・米多祐樹 / Yuki Yoneda)