2軍降格の佐藤直樹が気づいたプロの“孤独”…どんな日も貫いてきた自分との「約束」

ソフトバンク・佐藤直樹【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・佐藤直樹【写真:藤浦一都】

12日に登録抹消「またゼロからやってきます」…上林誠知が昇格へ

 自分自身のためだけに、貫き通したことがある。ソフトバンクの佐藤直樹外野手が12日に出場選手登録を抹消された。ファームから再出発を切ることになったが、1軍で得たことは、毎日継続することの大切さだった。「やるって決めたらやるタイプです」と自己分析。昨秋から自分を変えるために、取り組んできたのはどんなことだろうか。

 1月に「鏡視下腹腔鏡虫垂摘出術」を受けて、入院を余儀なくされた。ライバルたちが球春を迎える中で「もどかしかった」という日々を過ごした。3月に入って待望の実戦復帰。オープン戦では2試合出場、ホームランを放つなど結果を残して、開幕1軍に滑り込んだ。

 打撃もパンチ力こそあるものの、今季の1軍打率は.167。高い身体能力を用いた外野守備と走塁が主な役割となり、打席数は限られた。野手としてプロ野球タイ記録となる9打席連続三振を喫するなど、打撃面での試行錯誤は続いていた。それでも前だけを見て、自分自身に“約束”をして、ここまでを過ごしてきた。

 ビジター開催なら、試合後にチームは宿舎に戻らなければいけない。練習量をなかなか確保できないが、本拠地開催だと試合後に納得いくまで練習できる。「亮(吉本亮打撃コーチ)さんと秋のキャンプからずっとやってもらっていて、今も試合終わりは毎日ティーをあげてもらっています」。試合での打席数が限られるからこそ、とにかく練習だけに向き合い続けた。選手の中でも帰路につくのはいつも最後だった。

 明るいキャラクターでいつも先輩を笑わせている佐藤直。意外に聞こえるかもしれないが、継続することは「やるって決めたらやるタイプです」とキッパリと言う。JR西日本時代も「社会人の時も、練習が終わってからやっていたんです。寮に帰って素振りをずっとして。そしたら、しない日が気持ち悪い感じになってきて」という。何かを継続する習慣は、こうして培われた。

 プロに入れば野球が仕事になり、結果が全ての世界。自分の技術で居場所を作っていかなければならないプロ野球選手は、誰だって孤独だ。チームで動くことも大切な一方で「1人で見つめる時間というか。みんなで練習している時よりも、そこで気づくことの方が多いです」と自分だけの時間も大切にしてきた。ナイターの後も、移動ゲームの後も、どんな時もティー打撃を1箱。やりたくない日は「ないですね。楽しいです」とキッパリ言う。

「プロに入ってからはおろそかになっていた」という習慣は、昨年の秋季キャンプで再び自分のものになった。首脳陣から練習に対する姿勢を評価され、佐藤直も「秋にいっぱい振って、それが習慣になった」。吉本コーチは「『今までの自分を変えたい』とか、自分の中で生まれてきたからやっていると思う。それは選手としてすごく大事なこと。自分との“約束”を果たすってことだと思います」と目を細める。

 2019年のドラフト1位でJR西日本からホークスに入団した。入団時に3軍の打撃コーチを務めていた吉本コーチは技術面の成長について、こう語る。

「今までは何をしたらいいのか、なかなか捉えきれていなかった。彼の場合はタイミングと、捉えるイメージの持ち方ですね。きっちり打とうとしすぎていたので。ちょっと崩されたら崩れすぎるくらいだった。やるべきことがちょっとずつわかってきた感じではあるので。打ってから帰るというのは自分の中に入れているみたいです。そういうこともしながら、自分のものにしてくれたらと思います」

 2人が共有する意識が結果につながったのは、5月6日のロッテ戦(ZOZOマリン)。相手先発が左腕のメルセデスで「2番・中堅」でスタメン起用された。試合前の打撃練習、佐藤直は順番が終わっても、感覚がしっくりこなかった。もう一度、吉本コーチとティー打撃に励んでから、試合に臨んだ。結果は3打数2安打。限られたチャンスでしっかりと結果で応えた。

 佐藤直に代わって、上林誠知外野手が昇格する。「続けていきたいですね。そこでしか気づけないこともあるので」と、一歩ずつではあるが、確かに自分のものになっていたルーティン。12日には登録抹消となり「またゼロからやってきます」と、ここでも前だけを向いた。佐藤直の頑張りは必ず、必ず結果となって報われる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)