【連載・甲斐拓也】同期のドラ1に感じた悔しさと羨ましさ ファンを大事に思う理由

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

育成時代に見つめていた先輩や支配下の同期選手たちの姿に「羨ましいな」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、甲斐拓也選手の「6月前編」です。今回のテーマは「ファンの存在」。キャンプなどで丁寧にファンサービスを行う姿が印象的な甲斐選手にとって、ファンの存在とは? ファンを大切に思うのは、育成選手時代の悔しい経験があったからでした。「後編」は6月10日(土)に掲載予定です。

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 5月30日、本拠地PayPayドームで行われた中日戦で甲斐は同期の牧原大成内野手と共にヒーローインタビューに選ばれた。この日は6回に2号2ランを放つなど3安打の活躍。3本のヒットが全て長打で、チームの13得点大勝に大きく貢献した。

 お立ち台から黄色く染まるスタンドを眺め、甲斐は思った。「こんなにたくさん応援してくれてる人がいるんだって、改めて感じた瞬間でもあったので嬉しかったですね」。場内を一周する際には多くのファンから声をかけられた。「拓也~!」「頑張れ!」。温かな声援が心に染みた。

 世界一に輝いたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)から帰国し、調整のために出場した3月28、29日のウエスタン・リーグの広島戦。試合会場となったタマスタ筑後には多くのファンが詰め掛けた。試合を終えた甲斐はファンの求めに応じ、サインを書いたり、写真撮影したりと、長い時間をかけてファンサービスを行っていた。春季キャンプでも、ファンとの触れ合いに時間をかける。

 選手にとってファンサービスも大事な役割ではあるが、疲れている中で長時間、それを行うのは大変なことでもある。甲斐には甲斐なりのファンサービスへの思いがある。「やっぱりできる限りファンサービスはしたいです。僕は育成で入ってきて、先輩方がサインを求められている姿を見て『いいな……』って思って見ていたので」。プロ入り直後の記憶が蘇る。

 2010年の育成ドラフト6巡目でホークスに入団した。千賀滉大投手(現メッツ、4巡目)、牧原大(5巡目)が育成同期なのはよく知られているところだ。この年は3軍制の発足初年度で、育成選手を多く指名するようになったのも、このドラフトが初めてだった。見慣れぬ3桁の背番号。甲斐たちも先輩や支配下指名の選手たちとの“差”を痛感した。

 同期入団のドラフト1位は同じ高卒捕手の山下斐紹。同2位は柳田悠岐外野手だった。ドラフト上位指名の選手は当然、ファンからの期待も大きく周囲も騒ぎ立てる。「同期に山下がいて、すごい差を感じましたし、一緒にグラウンドに出ても、そっちにみんな『サインください』って行ってしまう。同級生でも、サインを求められてるというのは羨ましいなというのがありました」。悔しくもあり、そして羨ましくもあった。

「僕もやっぱりサインを書いて喜ばれるような選手になりたいと思ってやってきたので、極力、サインは書きたいと思っています」。育成選手の時の記憶が根源にはある。育成時代から支えてくれたファンへの恩もある。「そういう中でも(育成の)僕たちを応援してくれるファンはもちろんたくさんいたので、それは頑張る力になりました」。そうした人たちへの恩返しの思いも強い。

 ファンの存在を「間違いなく一押ししてくれる存在だと思います」と語る。ファンを大切に思うからこそ、昨今、問題となっている誹謗中傷には思うことがある。「後編」では、一部のファンから上がる心無い批判、中傷への思いを明かす。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)