師匠たちに元気な姿を見せることができて、ひとまずは安心した。ソフトバンクの重田倫明投手は5月26日にタマスタ筑後で打撃投手として登板した。イヒネ・イツア内野手に対して、変化球も交えながら腕を振った。「1か月くらい実戦から離れていた。投げている感じは悪くなかったです」。久々にマウンドに立てたことに価値があった。
悩まされたのは右手中指の「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という細菌感染症だった。入院生活を余儀なくされて、39度以上の熱が4日間続いた。泉圭輔投手や生海外野手らと同じ症状を経験し「アップする時からタマスタにいたので、こうやって投げられるのは幸せだなって」。打撃練習ではあったが、試合さながらの緊張感を持って、全力で野球ができる喜びを噛み締めた。
支えとなったのが、東浜巨投手の存在だ。昨オフに自主トレをともにし「師匠です」と表現する。感染症の状態についても日々、報告し「すごく心配してくれて」と内容を語る。ローテを守りながら1軍の緊張感の中で戦っている先輩に「ピリピリした中でやっているので、気を遣いながら。巨さんが投げた日や、次の日に連絡したりしていました」と後輩なりに距離感を測ってコミュニケーションを取っている。
「すごくフランクに連絡を取ってくださります。おちゃらけて『何してんだよ』とかも」と東浜との関係性を言葉にする。その中で、重田の現状を東浜も理解しているようだ。育成選手として入団して今季が5年目。支配下登録の期限が7月いっぱいなだけに、残されている時間は2か月を切っている。東浜からの連絡の一部を明かしてくれた。
「『支配下まだ?』みたいな話はします。でも一歩一歩頑張っていけよっていう。いろんな問題で、実力不足で3軍に行っている時も『こいつダメだ』っていう感じじゃなくて、色々教えてくれたり、気兼ねなく連絡をくれたりする」
当然、期待の表れだ。重田と東浜にしかない関係性の中で、重田も「人柄が出ているなと思います」と受け止めている。1人のプロ野球選手として、追いかけたいと思える背中。「僕の師匠というか、兄貴というか……。参考にしていますっていう後輩がたくさんいるとは思いますけど、その中でも僕は“片思い”というか、本当にすごく力になっているので。感謝しかないです」と感謝しきりだ。
東浜との自主トレでは、主に食事面の改善に取り組んだ。なかなか思うように伸びなかった筋量にも変化が表れ、明らかに球質も良くなったという。シーズンが始まってからも手応えは感じており「3軍とか2軍とかを加味しなくても、自分の中でここがいいな、ここが悪いなっていうのがはっきりとわかるようになったのは巨さんのおかげ」。結果だけを追い求めて、積み重ねてきた取り組みを信じているところだ。
東浜は先発投手として、多彩な球種と豊富な経験値を生かして、どんな時でも試合を作るのが最大の持ち味だ。東浜から学んで大切にしていることを聞くと、キラキラした瞳でこう言った。
「一番は決められない。それくらいあの人は自分の武器で戦っていかないといけない場所で勝負している人なので。それくらいいろんな経験と知識量がある。僕は一番と言ったら、全てです。人間的にもすごく参考にしている部分があるので、師匠です。総合力っていうところが見習っているところ。人間を見させてもらっています」
もちろん、憧れた背中は超えていくべきだということもわかっている。「すごく支えてもらっていますけど、超えていかないといかない」。7月までに、追いかけ続けている2桁の背番号を必ずつかむ。それが東浜への最大の恩返しだ。