選手への通達「一番ツラい」 プロの世界だから貫きたい斉藤和巳コーチの“親心”

ソフトバンク・斉藤和巳コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・斉藤和巳コーチ【写真:竹村岳】

泉圭輔が登録抹消…斉藤和コーチ「もう一回やり直した方が彼のためになる」

 斉藤和巳投手コーチにとって「一番ツラい」という仕事がある。ソフトバンクは29日、PayPayドームで投手練習を行った。30日の中日戦から交流戦が始まる。「今いるリリーフ陣は自信を持って(マウンドに)上げられる。どこでもやってくれるやろうと思っているし、そういう投手を1軍に置いているので」と信頼を寄せる。投手陣の起用、編成における悩みに、斉藤和コーチの“親心”が見えた。

 28日のロッテ戦(同)では先発の藤井皓哉投手が5回3失点。2-3と1点差で7回に突入したが、ここで津森宥紀投手が3失点、8回には泉圭輔投手も3失点と試合を決められてしまった。ベンチで泉と言葉を交わしたという斉藤和コーチも「あんまり言葉が出てこない状態だった。声はかけられなかったし、本人が一番ショックだった」と言うほど。呆然とする泉に、心から寄り添おうとした。

 試合後、泉は登録抹消が決まった。3試合に登板して防御率16.88で「結果も含めて、もう一回やり直した方が彼のためになるんじゃないかという判断」と斉藤和コーチは説明していた。また抹消中の嘉弥真新也投手について「映像も見て、報告も受けている。1回こっちに呼んで話をしようと、監督とも話している」と話すと、ポツリと漏らすように投手コーチとしての本音を口にした。

「難しいよね、誰かを(1軍に)上げるとね。誰かがね……(降格する)。上がりを伝えるのもツラいのよ。この作業が一番ツラい。『明日から2軍』とか。いい話じゃないからね。いい話じゃないことを伝えるのはしんどい。みんな頑張っているから」

 プロ野球が勝負の世界であることは、現役時代に2度の沢村賞を経験し、エースとして君臨してきた斉藤和コーチが誰よりもわかっている。一方で、指導者としてはマウンドを任せる投手に結果を出してもらい、人生が良い方向に進んでいくよう願っているのも事実だ。誰かが座っているポジションは、また別の誰かが座るかもしれなかったポジション。1軍のグラウンドに立ってナンボの野球選手だから、ファームとの入れ替えを告げる時が一番ツラい。

 泉とは、28日の試合前練習中にも会話をしたという。27日のロッテ戦で2失点した翌日で「ちょうど色々グラウンドで泉と話したところだったから」と、28日のベンチでは多くの言葉を伝えることはなかった。その後に「試合が終わってから、ちょこっと話はしたけどね、抹消を伝える時に」。プロである以上は結果が全てだが、泉を含め、投手の成功を願い、待ち続けていることだけは伝えたかった。

「ツラい」という状況は、他にもある。5月23日の日本ハム戦(エスコンフィールド北海道)の先発は大関友久投手だった。試合前の声出しで野村大樹内野手も「ゼキさんを勝たせることができていないので、勝ち星を上げられるように」と鼓舞。結果的には5回2失点で降板し、直後の6回に柳田悠岐外野手の決勝ソロが飛び出してチームは白星をつかんだ。大関のマウンドへの強い執着を知っているから、2-2の同点、103球で降板させるのはツラかった。

「その試合は久しぶりにゼキも苦しんでいたから。こっちが交代を告げなあかんかった。長いイニングを投げたいと誰よりも思ってくれている投手なので。それを告げるのはこっちもツラい。勝ちがつく確率も低い状況やったから。ゼキのために試合前の声出しでも話してくれたみたいで、その思いはみんなあったから」

 斉藤和コーチにとっても、指導者1年目のシーズン。ツラい状況とともに、指導者としての喜びを感じるシーンも絶対にあるはずだ。誰よりも大きな器で、1人1人の投手を受け止めようとしている。斉藤和コーチの思いが、選手を救う時が必ず来る。

(竹村岳 / Gaku Takemura)