1軍にいられずとも、確実に成長を遂げている。ウエスタン・リーグが開幕して2か月以上が経った今、渡邉陸捕手はファームで汗を流している。その表情は明るく「徐々に上がってきています。感じとしても、いい時の感じが出てきています」と心境を語る。地に足をつけて自身と向き合っているところだ。
ウエスタン・リーグでは25試合に出場して打率.217。長打力が持ち味でもあるが、本塁打は0と数字だけ見れば苦しんでいるように見える。ただ、本人は「ちょっとずつです」と焦る様子はない。捕手は1つのポジションしかないだけに、経験を積むにも時間がかかる。「1カードに1試合だったり、1カードに2試合っていうのが増えてきた感じです」という。
開幕してから、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」を訪れた城島健司会長付特別アドバイザーと言葉を交わす機会があった。伝えられたのは、主に守備面のこと。しかも、技術ではなくて姿勢についての話で深みがあった。
「ボールを審判にもらって『自分で返せ』と言われたことがあったんです。投手との間(ま)というか……。『何かを言ってから(ピッチャーにボールを)返せ』っていうのは言われていて『それはちょっとずつできているんじゃない?』と言ってもらいました」
ファウルなどでプレーが途切れた時、球審がボールを取り出す。そのまま、球審に投手へ球を投げさせるのではなく、捕手が一度、受け取って捕手の手から渡すことが大事だという教えだ。「その考えはなかったです」と“目からウロコ”だった言葉を今も忠実に守っている。城島アドバイザーなりに投手という“生き物”を理解しているから説得力があった。
「ボールをもらって、その送球も早く返したり、遅く返したりで“思い”を伝えることに意味がある、と言われました。『投手はボールを持ったらもう話が入ってこないから』って。渡す前にちゃんと伝えたいことは言ってから返す。それ(言われる)まではただ返して、サインを出すまでに『低く』とか伝えるようにしていたんですけど」
打撃面でも助言をもらった。「バッティングについては『もっと打て』としか言われなかったので、僕から聞いて。『バッティング、どんな感じにしたらいいですか?』って」。一言で表現しようとするところも城島アドバイザーらしいかもしれないが、渡邉陸は食い下がって助言を求めた。自分の現在地がわかる言葉を授かった。
「『バッティングは2パターンある』みたいな話があって。城島さんはギータ(柳田)さん系らしいです。縦に振って下、地面に力を伝えるというか。『お前は多分、近藤タイプだ』って言われました」
柳田といえば、体がのけぞるほどの豪快なフルスイングが代名詞。地面から下半身に伝わる反発すら打球への力に変えて飛距離を生み出している。渡邉陸は近藤健介外野手に似ているようで「横に回る中で、あまり軸足は回らない」と自分なりに理解する。投球のラインに対してバットを入れていくことでミートポイントにも“奥行き”を出す。長打力も持ち味ではあるが、渡邉陸は近藤に似たヒットマンタイプのようだ。
ホークスのレジェンドから得たヒントを形にしようと、今は必死に汗を流す日々。「少なからず期待してくださっているのは感じます」。球団からも大きな期待を寄せられている“打てる捕手”。結果で応えることで必ず恩返しする。