【連載・栗原陵矢】復調の光を感じた1本の単打 状態を測る独特のバロメーター

ソフトバンク・栗原陵矢【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・栗原陵矢【写真:藤浦一都】

これまでは感じなかった良い感覚があった14日のオリックス戦「続いていくか」

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、栗原陵矢選手の「5月中編」です。今回のテーマは「復調の兆し」。打撃不振が続いていた栗原選手が、手応えを感じた1本の安打がありました。本塁打でもない、1本の単打。なぜ、栗原選手が光を感じたのか。そこには選手にしか分からない秘密が隠されていました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 開幕してから約1か月半が過ぎた。栗原はここまで全35試合に出場して、打率.243、4本塁打、25打点。「1か月半、怪我なくやれているんで、それが1番です。もちろん(数字は)全然納得はいかないですけど、そこは日々、試行錯誤しながらやっています」。怪我なく試合に出場できている日々に充実感を滲ませつつも、当然、数字に対しては不満げだ。

 左膝前十字靭帯断裂などの大怪我を負い、昨季はほぼシーズン全てを棒に振った。復帰を果たした今季、開幕した直後は結果が出ていたものの、1年近いブランクの影響がないわけではなかった。開幕4試合で3本塁打を放ったものの、栗原自身は「決して良くはない」と語っていた。ヒットもホームランも出ていたが、手応えの感じられないまま、戦いを続けていた。

 そんな感覚は徐々に結果になって現れ始めた。4月半ば頃から下降線を描き、打率は2割2分まで落ち込むこともあった。「たまに感覚のいい日はありましたけど、そこまで納得いくヒットは少なかったですね」。見ている人間には決して感じることができない、選手だからこその感覚。手応えのない打席が続き、微調整を繰り返す日々だった。

 そんな栗原に復調の光が差し込む“1本の安打”がようやく出た。3-3の延長12回引き分けに終わった5月14日のオリックス戦(京セラドーム)。6回1死一、三塁のチャンスで、オリックス先発の山下から放った右前適時打が、それだった。カウント1ストライクからの2球目。155キロの真っ直ぐを弾き返した打球は、一塁の頓宮のすぐ横を抜くタイムリーとなった。

「1本目のライト前が良かったですね。バロメーターになる打球だった。しっかりと真っ直ぐを狙いにいった中で良いポイントで打てたんです。ああいうラインドライブのかかった打球がライトに行ったのは良い傾向です」

 見ているものからすると、ホームランのような華やかな一打が、打者の状態を左右すると思いがちだ。だが、その“バロメーター”は皆同じではない。引っ張った本塁打の選手もいれば、逆方向への本塁打の選手もいる。そして栗原にとってのそれは「一、二塁間を抜くヒット」なのだという。

「僕の好調のバロメーターは一、二塁間を破るヒットなんです。スイングが巻き込む感じのスイングなんで、引っ張ろうとして引っ張れるようになると感じが良くなるんです。逆方向とかの打球ではないです」

 栗原にとってボールを巻き込んだ形で一、二塁間に打球が飛ぶようになると、状態が上向いてきた兆しになるという。「あの試合は良かったと思います。これが続いていくかどうか、それはちょっと分からないですけど」と言うが、16日の楽天戦でも2安打。そして17日の同戦でも安打を放った。

 これで現在は4試合連続安打中。4月30日から5試合連続安打はあったが、今回続いているヒットは、これまで続いていたヒットとは明らかに中身が違う。芽生えてきた確かな“いい感覚”の中で放ったものと言える。打撃とは難しいもので、日々感覚が変わり、いつ状態が下向くかも分からない。それでも、ここまで感じることのなかった感覚が、今季初めて生まれたのは大きな収穫だ。

 チームの負けがこんだ時には「この負けっていうのは自分の責任。回ってくるチャンスの数は変わらない」と自責の念を口にしていた。ようやく掴んだ上昇の兆し。栗原の復調とともに、チームの成績も上向いてくるはずだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)