捕手とは何よりも経験が大切なポジションだ。育成も教育も、1軍への準備も求められるファームでは、捕手の運用には工夫を凝らさなければならない。ウエスタン・リーグの中日戦(タマスタ筑後)が雨天中止となった7日、高谷裕亮2軍バッテリーコーチに捕手起用について取材した。「起用は兼ね合いがあるのでなんとも言えない」とした上で「大事にしてもらいたいのは、根拠を持ってサインを出してほしい」と語る。
5月2日からのウエスタン・リーグの阪神3連戦(タマスタ筑後)では渡邉陸捕手が3試合全てでフル出場した。当然、1つしかないポジション。1人がマスクを被れば、他の捕手が試合に出ることはできない。この時は“カード”を見据えたリードを学ぶために、渡邉陸を固定して起用した。昨年から継続している起用プランで、高谷コーチは「初戦にどういうことをする、それを踏まえて2戦目、3戦目にどうリードしていくか。あとは体力面です」と意図を説明した。
1軍では勝利が最優先で求められる。かつレギュラーとなれば、1年間グラウンドに立ち続けなければならない。「(2軍で)1試合ずつ回したら、体力ってなかなかつかないんです。こういう時にやっておかないと」。高谷コーチは現役時代の経験から「例えば、1戦目は7回から9回の終盤に点を取られないように意識していました。次の試合に勢いがついてしまうので」と振り返る。1試合では学べない、1カードだからこその気づきがあるものなのだ。
「相手選手の状態にもよりますね。前の違うチームとの試合の映像も見ますし、攻め方も見ます。それでバッターがどうなっているのかを見て、じゃあ自分たちはどうしていこうかってなりますので」
1軍の舞台なら、カードの1戦目に相手の主軸の形を狂わせることが理想となる。タイミングを崩すことができれば、それはカードを通じて生きてくる。高谷コーチは「(現役の時は)できたかどうかはわからないですけど」と苦笑いしながら「やろうとしたことはあります。できたかどうかは結果なので、まずトライしてみる。そこから、結果が出ますから」。結果と経験から学ぶことの重要性を強調した。
ホークスの強みも生きる。渡邉陸はフル出場した阪神戦の後は3軍に合流した。「2軍で出られないなら、3軍で出てくる。3軍で出られない子が4軍に行くこともある。経験値からしたら、選手にとってはいいこと。シャッフルして使うことができるのはメリットです」と高谷コーチは頷く。ホークスには支配下8選手、育成4選手の合計12人の捕手がいるだけに、試合数が多いことはプラスに働いているようだ。
頼もしい存在もいる。5日、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」に姿を見せたのは城島健司会長付特別アドバイザーだ。高谷コーチは「アドバイスはいただいています」という。渡邉陸について「他のキャッチャーよりも手足が長いから、こういうこともどうだっていう話をして。僕が知らないこともアドバイスをしてもらったりします」。現役時代に“スーパーキャッチャー”と呼ばれた城島アドバイザーの存在も、捕手陣に大きな影響を与えている。
高谷コーチは現役時代、2番手捕手として長くチームを支えた。経験が大事ではあるが、それが全てではないとも言う。試合に出れば「肌で感じられるじゃないですか」と、直に学ぶことができる。目の前で起き、自らプレーしているから当然だ。だからこそ捕手にとって大切なのは、試合に“出ていない時”だと強調する。
「中継ぎの投手とも話をして。練習をしている時に雑談をしたりして、そういうのをしていると投手の方から聞いてくるんです。『あれどうですかね』って。そこで会話が生まれますし、そうなるとこっちも見ておかないといけない責任感があるじゃないですか。そういう関係になるくらい、密になった方がいい。最後の方は本当にそうでした。抑えて当たり前のところでいっていたので」
24時間のほとんどを野球に費やして、結果を追い求めた現役時代。今は選手の力になれるように、指導者として成長を続けている。