脳裏に浮かんだ「バントやろうかな…」 劇的サヨナラ打の栗原陵矢が“覚悟を決めた”瞬間

ソフトバンク・栗原陵矢【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・栗原陵矢【写真:藤浦一都】

今季2度目のサヨナラ勝利…「昨日、一昨日とふがいない試合」

 ベンチの期待に、応える。野球選手として、信頼を感じるようなシーンだった。ソフトバンクは4日、オリックス戦(PayPayドーム)に8-7で勝利した。延長11回無死一、二塁で栗原陵矢外野手が中越えに試合を決める一打を放った。自身今季2度目のサヨナラ打に「本当にたくさんのお客さんに来ていただいている中で、昨日、一昨日とふがいない試合をしてしまった。今日勝ててよかったです」と話した。

 まさにシーソーゲームだった。初回に2点を失うも、その裏に栗原の2点適時打で同点とする。4回1死一、二塁では近藤健介外野手が逆転3ランを放った。さらに8回1死二塁で中村晃外野手が同点2ランと、連敗を止めたいナインの集中力が結果につながった。迎えた延長11回。近藤が四球、柳田悠岐外野手が中前打で続き、栗原を迎えた。

 藤本博史監督は試合後「バントは一切考えていなかった」と明かす。ウイリアンス・アストゥディーヨ内野手、今宮健太内野手と続く並びで「打てる確率の高いところで。同点でサヨナラの場面だから」と理由を続けた。バントより、ヒッティングの方がサヨナラのホームが近づくという判断。首脳陣は信頼して託したが、栗原の胸中は少し違ったようだ。

「絶対(バントのサインが)出ると思いましたし、ノーサインでも本当にやろうかなと思いました。打席(の足場)をならしている間は迷っていましたけど、これは打つしかないと思っていきました。(ヒッティングで)『行く』って決めた時は切り替えました」

 この試合を終えたところでの打率は.245しかない。開幕直後の勢いは下降線を描いており「チームが勝つために、自分の今の状態を考えたらそっち(バント)の方が……と考えました」と自らバントを選択肢に入れるほど。ただ「監督に『打て』のサインを出してもらったので。自分も覚悟を決めていきました」。投手とにらみ合うともう、迷いはなくなっていた。

 栗原といえば、2021年の東京五輪が印象深い。準々決勝の米国戦、タイブレーク制の延長10回無死一、二塁で初球、重圧のかかる“代打バント”を見事に成功させた。大会唯一の打席で、金メダルにつながる大きな犠打を決めた。本人は「自信はないです」と苦笑いするが、ホークスの首脳陣も栗原の器用さは頭に入っていたはずだ。それでも出た“打て”のサインに応えるにはもう、結果しかなかった。

 チームは4連敗、勝率5割となって迎えた試合。「負けている状態だと、どうしても勢いに乗れない部分はありました。とにかく先制点をという気持ちでみんなはやっていました」とチームの雰囲気を代弁する。近藤、中村晃ら、結果で引っ張ってくれる先輩選手の背中を「本当にカッコいいというか……。こういう劣勢の状態でも、自分もバッティングでなんとかできるようにとは思いました」と追いかけ続ける。

 自身の状態についても「これくらいの力しかまだないというだけです」と受け入れて、グラウンドに立っている。スタメンが日々変わろうとも「近藤、柳田、栗原」の並びだけは変わらないのが、信頼の証。必ず、応えてみせる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)