【連載・板東湧梧】いつか「越えなくちゃいけない」存在 自主トレで痛感した和田毅の凄さ

ソフトバンク・板東湧梧【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:藤浦一都】

「俺、左投手だけどいいの?」…板東が和田に自主トレを志願した経緯

 鷹フル月イチ連載4人目・板東湧梧投手の「中編」は超えたい憧れの存在について明かします。1月の自主トレでは志願して和田毅投手に“弟子入り”。26日の楽天戦で今季2勝目をあげた42歳の大先輩から学んだものは、どんなものだったのか。一番近くで見たからこそ感じた素顔にも迫っていく。

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“和田一門”の投げ合いは、見ている側にも刺激を与えた。26日の楽天戦は和田と早川隆久投手の投げ合いだった。早大の先輩、後輩にあたり、自主トレをともにする師匠と弟子のマッチアップを「やばいですね。一緒にやって(早川のことも)すごいと思ったので。刺激になります」と楽しみにしていたのが板東だ。ホークスに限らず、他球団の選手からも自主トレの依頼が次々と訪れる和田は、板東にとってどんな存在なのか。

「和田さんはもう……すごすぎて。やっぱりすごいです。尊敬していますし、教科書みたいというか、先生です」

 昨季終盤に先発ローテーションをつかんで、3勝を挙げた。より進化するために板東が頭を下げた相手が和田だった。「『俺、左投手だけどいいの?』って言われたんですけど『知ってます、お願いします』って」と経緯を明かす。1月はほぼ和田のもとで自主トレをともにした。

 和田の自主トレでは厳しい体幹メニューが待っている。「やっぱりコア(体幹)の部分は和田さんが大事にされている」。体幹を鍛えるためには日々の積み重ねしかない。見ている側からすれば、地味にも映るもの。それが投球に与える影響を「和田さんはわかってるんですけど、僕が大事だと理解しても、体幹だけを意識してもできない。やっと今わかってきた段階で、本当に初歩の初歩です」と話す。今も継続中だ。

「言われてすぐの時も『わかる』って思うんですけど、すぐには自分で体現できないので、そこは『すげえ』で終わってしまう。でも自分が日々取り組む中で本当に『あ、和田さん言ってたのこれか!』みたいなのがあって。そういう時に改めて言っていることが理解できたと思うし、すごいと思います」

 自主トレをともにしたことで、和田との距離感自体は近づいた。ただ、ハードなトレーニングを身をもって感じたことで「逆に遠く感じますね。理解すれば理解するほど、その距離がわかるというか」と“遠い存在”だとも思ってしまう。効果を感じ始めたからこそ、わかるのは和田のすごさだけだ。「人として尊敬できるからこそついていきたいと思えますし、すごく柔軟な部分もある。本当に人としていい人なので、学びたいです」と、はっきりと憧れとなっている。

 自主トレの前後で、和田に対する印象の変化はあったのか。間近で見て感じたことは、実績ある選手は誰よりも努力しているという現実そのものだった。「決してセンスだけでやってきたわけじゃないというか、積み重ねてきたものを感じました。ただすごいというんじゃなくて、なるべくしてこうなってきたんだなと思いました」。和田というベテランでさえも、いや、長く続けられる人ほど準備と努力を怠らない。その姿勢を見られたことが最大の収穫だった。

 シーズンが始まった今、リリーフとしてブルペンを支えている板東だが、開幕ローテーションを争った3月は和田は“ライバル”だった。今も第一線で戦う高い壁を「同じ舞台で戦っている1人の選手としては越えなくちゃいけないと思う。絶対に越えられないとか、そういうふうに思っちゃいけないと思うんですけど、やっぱり高いですね」と苦笑いで表現した。

 3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の、米国との決勝戦の前。野球日本代表「侍ジャパン」の大谷翔平投手(エンゼルス)は円陣で「憧れるのをやめましょう。憧れたら越えられないので」とナインを鼓舞した。板東も「まさにそうだと思います」と共感する。

 昨シーズン中から板東は「メディテーション」のセッションを受けている。日本語訳すると「瞑想」を意味する言葉で、専門の先生からポジティブな言葉をもらうことで前向きなメンタルに変わり、パフォーマンスにつなげるセッションだ。「メディテーションでも言われるんです。自分の殻、枠を破らなくちゃ越えていくことはできないと言われるので」。板東にとって超えていくべきものは、和田毅という憧れの背中だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)