犠飛は簡単「だって、外野フライですよ?」 長谷川コーチが栗原に伝えた“極意”

栗原陵矢に指導するソフトバンク・長谷川勇也コーチ【写真:竹村岳】
栗原陵矢に指導するソフトバンク・長谷川勇也コーチ【写真:竹村岳】

11日の日本ハム戦で栗原陵矢がサヨナラ犠飛…試合後に明かした“犠飛の練習”

 積み上げてきた技術の結晶を、今は伝える側になった。ソフトバンクの長谷川勇也打撃コーチの真髄が、試合を決する一打に表れた試合がある。4-3でサヨナラ勝ちを飾った11日の日本ハム戦。延長10回無死満塁で決勝犠飛を放った栗原陵矢外野手は「キャンプで長谷川さんと色々話をしながらやりました。確実に1点を取りにいくことを考えたときに、必要なことだと思ったので」と、“犠飛を打つ練習”を振り返った。

 キャンプ中のふとした会話の中で、2人は意図的に外野フライを打つという会話に至ったという。感覚的なものだとしても、栗原には教わったことをすぐに体現できる技術が「ありますね」と、長谷川コーチは言う。現役通算1108安打を放った打撃職人なりの“犠飛の打ち方”とは――。

「『僕はちょっと詰まらせて打つよ』とは言いました。犠牲フライを打ちたい時は、芯で打たないようにしていました。ちょっと詰まっても外野の定位置まで持っていけるので」

 技術論は続く。しっかり打とうとすれば、必ず手首が返る。それでゴロになってしまうことがあるといい「詰まって打てば、バットの面が返っていない。芯で打とうとするとパチンと(手首)が返るから、面を返さずにそのまま当てにいく。そう詰まっておけばセンターやレフトに飛んでいくので」。投球に対してバットの面でとらえようとすることで、打球は自然と左中間方向に飛ぶ。高度な技術をさらりと言ってのけた。

 当然、イニングや点差、相手投手によって「複数点がほしい」のか「ここは1点でいい」のか、打席に入るまでに頭を整理しておくことが必要だ。「試合の流れ的にもここはヒットよりも1点取っておきたい、とか」。11日の栗原の場面に関しても「僕もあのケースなら犠牲フライに打ちにいきます」と、最高の結果にいたるまでの姿勢も評価していた。

 犠飛にはメンタル面でも相乗効果をもたらすという。長谷川コーチは「けっこう便利なんですよ」と切り出し「犠牲フライを打っておけば打席は減るし、打点は稼げるし。状態がいい時はいいんですけど、悪い時に打席を減らすことで打率とか。首位打者を狙うのであれば、そういうケアも必要」。不調の時にでも打点を挙げることで、チームに貢献していると自分自身が思える。2013年に打率.341で首位打者になった長谷川コーチだから、なおさら説得力がある。

 現役時代に何度も犠牲フライを狙い、成功した経験は「あります」。相手も打たせないと思って投げてくるが、長谷川コーチは「だって、外野フライですよ?」と当然のように話す。「ランナーがいなかったらただのフライ。でもその状況だったら最高のバッティングだし、わざとそれをすればいい。そのバッティングをしにいけばいいだけでしょう」と真顔で言った。当然、相応の技術があるからできる芸当だ。

“注文”も忘れないのが、長谷川コーチらしい。「他の選手はやったことがないだけですよ。やろうと思ったらできるんじゃないですか? ただそこに興味がないだけ。普通は興味が出るんですけどね、どうやったら犠牲フライが打てるのか。そういう感覚がないので、特に若い選手は」と向上心を求める。打撃を突き詰めたいのなら、興味がわくのが当然だという思いを込める。

「僕も誰からか教わったわけじゃないですからね。自分で編み出したものであり、僕の引き出しなだけ」

 自分が授けた知識を生かして、選手が結果で応える。栗原のサヨナラ犠飛は、指導者冥利に尽きるだろう。

(竹村岳 / Gaku Takemura)