自分の持ち味も課題も、そこへのアプローチも、少しずつ分かってきた。ファームで調整が続く甲斐野央投手は「今、野球が楽しいです」という。14日のウエスタン・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)では1回1失点。2三振を奪ったが、同点に追いつかれてしまい、試合を締めることはできなかった。
最速160キロの直球が最大の武器ではあるが、課題は明白だ。「コントロールと耳にタコができるくらい、それくらい僕はずっと言われている。徐々に形になっている実感はある」。昨秋から斉藤和巳1軍投手コーチをはじめ、最大の課題に真正面から向き合ってきた。その効果は思わず「(四球が)減ってきていますよね?」と漏らすほど、確実に表れている。
「3ボールになっても、そこからどう組み立てていこうかなっていうメンタルの持っていき方になっています。ボールになったらどうしようじゃなくて、そこからどう抑えてやろうかなと。そこはマウンドにいながら変われているのかなっていう実感もあります」
オープン戦では5回2/3を投げて1四球だった。しかし、被安打12はイニングの倍以上で、防御率11.12。開幕1軍はつかめなかった。ウエスタン・リーグでも7回2/3を投げて2四球。制球面は改善されつつあり、ゾーンで勝負することはできている。その一方で「まとまってきてはいますけど、また次の新しい課題が出てきている」。今、甲斐野が向き合っている課題はどんなものなのか。
「けっこう真っ直ぐをポンポンと打たれている。弱いわけではないと思うんですけど、タイミングを合わせられやすいとか、データとかもあるんですけど、そこは課題かなと思っています。1つ分かっているのは、バッターも真っ直ぐ1本で張ってきている。それはマウンドでも感じます」
甲斐野といえば、力強いストレート。それを理解した相手を圧倒できるほどのものは、今の自分にないと言う。「相手もプロ。どれだけ真っ直ぐが速くても、今の時代に真っ直ぐで空振りを取るのは確率的には低い」。だからこそ、大切なのがコントロールだ。「コースか高さ、どっちか頑張らないといけないとすごく思います。5年目にして気づきました」と自虐的に笑うが、表情は前だけを見ている。
3月下旬、2軍に落ちた時の表情は冴えなかった。「あの時はやばかったです。『結局2年連続かよ』『俺、こんなもんやな……』って。“1.5軍”みたいな位置で。変わらないといけないとか、考えていたらそういう顔になっていたのかもしれないです」。自分の立ち位置を受け入れて、前を向くしかなかった。開幕1軍という1つの目標を叶えることができなかったが、継続してコントロールと向き合い続けているのは、甲斐野自身の強さだ。
ファームで奪った23個のアウトの中で、16個の三振を奪っている。リリーフとしての奪三振能力は健在であり「それは自信にしたらいい」とうなずく。「四球は確実に減っている。それも置きにいくとかじゃなく、ちゃんと形になってきているんです」と語る表情は手応えに満ちていた。継続している取り組みがいつか実を結ぶと信じて、今は黙々と取り組んでいる。甲斐野らしい笑顔が戻ってきたことが、最大の証だ。
「1軍、2軍関係なく、形になってきている実感がプロに入って一番感じられている期間でもあります。内容と結果も大事ですけど、まずは成長したいという、そっちです。成長できているのかなとも思いますし、投げていてもそれは感じます。もっと練習しないとなって」
表情は、確かに明るい。そして付け加えるように、こう言った。「今、野球が楽しいです。それだけ書いておいてください。楽しんでいます」。甲斐野央の力が必要となる瞬間は来る。必ず来る。