ようやく肩を並べた。万感の世界一だ。野球日本代表「侍ジャパン」が21日(日本時間22日)、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝戦で米国に3-2で勝利し、3大会ぶりに優勝した。ソフトバンクからは甲斐拓也捕手、牧原大成内野手、近藤健介外野手、周東佑京外野手が選出され、世界一に貢献。ホークスに育成同期で入団した甲斐と牧原大は、ともに世界一のメンバーとなった。
2010年のドラフト会議。育成4位で千賀滉大投手、育成5位で牧原大、育成6位で甲斐がソフトバンクに入団した。千賀は3年目の2013年に51試合に登板。2016年からは7年連続2桁勝利と、ホークスのエースとなった。甲斐も2017年から6年連続でゴールデングラブ賞を受賞し、ホークスの正捕手になった。“育成の星”として注目を集める2人の背中を、牧原大も「正直、嫉妬したこともあるし、活躍するしかなかった」と追いかけてきた。
迎えた2022年。牧原大は規定打席に残り2打席届かなかったものの、紛れもない主力として打率.301を残して1軍に貢献した。他の誰でもなく、牧原大自身が千賀と甲斐に“肩を並べた”と思えるシーズンだった。千賀、甲斐は2021年に東京五輪に選出され世界一に貢献。牧原大にとって今回、WBCに臨む侍ジャパンへの追加招集は、さらに2人に肩を並べる出来事だった。
昨年、ホークスは惜しくもリーグ優勝を逃した。それでも、優勝のために努力する姿を甲斐と牧原大はお互いに見てきた。移動の飛行機の中でも、甲斐は相手チームの映像を見て研究。遠征先に着くまで勝利のために準備していた。牧原大も「勉強、研究しているのをすごく感じましたし、打たれても拓也が努力をしているからこそ、そこまでやって打たれるのなら仕方ないと思える」と甲斐の姿を自分の力に変えていた。
扇の要としてプレーする捕手の甲斐は、牧原大の、グラブを何十個も持つほどの守備へのこだわりを理解している。試合前のベンチでは相手打者の打球方向について何度も意見を交換する。「『この選手はこっちかな』とか聞いてきたり、マッキーも相当準備しています」と甲斐が話せば、牧原大も「自分でデータを見た上でここにくると思っているのを、拓也の話を聞いて自分の中で100%になる感じ」と信頼する。
リスペクトで成り立つ2人の関係。捕手として徹底的な準備をする甲斐のためにも、牧原大は熱い思いを持ってグラウンドに立つ。「キャッチャーって本当に孤独なので。なんとかしてあげたい、拓也が一生懸命に考えて抑えにきている。できるだけ、普通の球を捕るのは当たり前なので、ヒット性でも全部捕ってあげたい気持ちはすごくあります」。ちょっとばかり個人的な思いも交錯する。
グラウンドで1人だけ、反対方向を向く捕手。甲斐も、マスク越しに牧原大がいることには「マッキーだからできたプレーがたくさんある」と信頼を寄せるしかない。捕手だけを守るだけに、ユーティリティープレーヤーとして複数のポジションを守る牧原大の役割も「大変だと思います」と理解を示す。
育成から歩んだプロの道。甲斐が言うのは“せんたく”として、ともにプロ生活を歩んだ千賀への感謝だ。
「これまでたくさん2人で試合を作ってきて、いいところも悪いところもお互いにあったと思います。意見も交わしたこともあるので、ただここまで僕自身がこられたのは千賀の助けもあって、千賀に成長させてもらった部分が僕はたくさんあるので、そこは感謝しかないです」
昨季9月25日のロッテ戦(PayPayドーム)では千賀、甲斐、牧原大の3人で場内を1周した。千賀が「最高でした。あんな嬉しいことはない」と話せば、甲斐も「一緒です。感慨深いです」と懐かしむ。牧原大も「僕のプロ人生の中での一番の夢が叶った」と噛み締めていた。形は違えど、柳田悠岐外野手も含めて同期入団の4人が経験した世界一。肩を並べて見た景色は、どんなものだったろうか。