2020年ドラフト1位の井上朋也を鷹フルが単独取材 苦しかったリハビリの日々
苦しかった分だけ、野球を楽しむ気持ちを思い出すことができた。3年目の井上朋也内野手は、宮崎市内の生目の杜運動公園で行われている春季キャンプをB組で過ごしている。「去年は怪我をして、体力面でも落ちている部分もあったので、それを戻すことと、もう一回怪我をしない体作り。あとは1軍で戦える形を作ることをテーマにしています」と汗をぬぐった。
昨年8月に「内視鏡視下腰椎椎間板ヘルニア摘出術」を受けた。当時は腰痛でまともに歩くこともできず、床に落ちているものを拾うことさえできなかった。「立ったり座ったりしたら、めっちゃしびれて。初めてこんなになって…」。自然治療での回復を目指していたが、なかなか状態は上向かなかった。「逆に(手術を)やりたい、早くしたいってなっていきました」と手術までの経緯を振り返る。
「これまでは長くても1か月とかでした」と、味わったことのない長期のリハビリが始まった。1人なら、もっとつらかったはずの道のりを一緒に歩いてくれたのは、同時期にリハビリ組にいた栗原陵矢外野手だった。左膝の前十字靱帯断裂という大怪我から復活を目指す先輩の姿は、井上の心を照らし、道しるべとなった。
「はじめは僕が気分が落ちることもあったんですけど、いろいろ面倒も見てくださって。盛り上げて練習も一緒にしてくださって、大きかったと思います。クリさんも、前を向けない時もあったと思うんですけど、僕もそういう姿を見てきて。それでもやっぱりクリさんはやるべきことをしっかりやっていたので。見習わないといけないなって思いました」
昨年9月24日のロッテ戦(PayPayドーム)は明石健志(現・2軍打撃コーチ)の引退試合だった。井上は風間球打投手とともに、栗原に連れられスタンド観戦。球場が赤一色に染まり、ホークス一筋に愛された男が万雷の拍手をもらう姿に「色々感じるものがあって、あの球場の雰囲気を見るだけでも奮い立つというか。そういう気持ちになりました」と目に焼き付けた。
明石2軍打撃コーチも、現役時代は腰痛に苦しんだ。治療のために訪れた病院で、ばったり顔を合わせたこともあるという。明石コーチは「僕の場合は“抜ける”感じだったので。しびれとはまた違うかもしれないですけど」とした上で「彼は若いから回復も早いと思う。腰は体の要なので、これから負担のかからない動きを見つけてくれたら」と期待を込めていた。
春季キャンプも第4クールを終えて、井上も順調にメニューを消化している。体力面も「だいぶ慣れてきました」と、ようやく取り戻してきた。昨季の春季キャンプはA組で過ごしたが、今春は怪我明けだったこともあり「そう(B組)だろうとわかっていたので、そこは関係なく自分のやるべきことをやるだけです」と現状を受け入れて、虎視眈々と上を目指しているところだ。
1月28日に20歳の誕生日を迎えた。お酒も味わってみたといい「『こんな感じなんや』ってくらいです。まだおいしくはないですね」と苦笑いする。地元・大阪での成人式にも参加し「久しぶりの人たちもいっぱいいて、いろんな人に『頑張れ!』って言ってもらいました」と、関西弁が心地よかった。背筋を伸ばして、身も心もちょっぴり成長して、3年目に飛び込んでいく。
腰を痛めて、気づいたことがある。「改めて、自分は野球が好きやねんなって思いました。今、野球をできているのが楽しいです」。野球を全力で楽しむために、結果だけを求める。あのリハビリの日々は必要だったんだと、笑って振り返るために。
(竹村岳 / Gaku Takemura)