ソフトバンクの“未完の大砲”リチャード内野手が少しずつ進化を見せている。14日に行われたウエスタン・リーグの広島戦でリーグ単独トップとなる21号の本塁打を放つと、15日の同戦でも2試合連発となる22号ソロ。2位以下に10本以上の大差をつけて本塁打王争いを独走しているが、小久保裕紀2軍も「内容がずっと良くなってきている」と評価している。
14日の広島戦。3点をリードして迎えた3回の第2打席だった。3ボール2ストライクとなってからの6球目。広島先発の中村が投じた外のスライダーを捉えた。快音を残した打球は左翼防球ネットに突き刺さるソロ本塁打に。見事なアーチを小久保2軍監督は「ものすごい価値があります」と絶賛した。
これまでリチャードを厳しく指導してきた小久保2軍監督が絶賛したのには理由がある。「ボール1つ分だけ近くで打つ練習をずっとさせているんですよ。変化球が曲がり切った後に打つっていう発想がまずない子だったんで。曲がりっぱなしか打たなかったんで、変化球が曲がってここまで来て、右足の前ぐらいで打つというのを練習も含めてやってみ、という話をして。それがちょっと形になりつつあるんです」と明かす。
小久保2軍監督はファーム降格となったリチャードと話し合いの場を持ち、考えを伝えた。「今年の2月、3月より10倍レギュラーを獲るのが難しくなったよっていう話から始めた。打ち続けるしかないし、もうポジションは空いてないよ。その覚悟はあるのって」。打撃のアプローチ面でアドバイスも。ポイントをボール1個分、体側に寄せて、よりボールを引きつけて打つように取り組ませた。
これまでリチャードといえば、特に1軍では、追い込まれてから外角のスライダーにバットが止まらず空振り三振を喫するシーンも散見された。それはポイントが投手寄りにあるからだと、小久保2軍監督は言う。ポイントが近くなると、押し込むためにパワーが必須。ただ、リチャードのパワーはチーム随一だ。だからこそ、小久保2軍監督は「彼の力的には、ボール1個から押し込んだホームランというものを求めてほしい」という。
14日に放った一発は、追い込まれてからそのスライダーを捉えたもの。「今までにはない形のホームラン。今まで空振りしていた球なんで。空振りというか変化球を待って、止まって引っ掛けて打つことってあんまりできなかった」。これまでにない本塁打だったことに小久保2軍監督は目を細め「ものすごい価値がある」と絶賛したのだった。
翌15日に2戦連発のホームランを放った打席も、2球で追い込まれながら、外角への3球目のスライダーにバットがピタッと止まった。続く4球目、今度は真ん中付近に甘く入ったストレートに、やや差し込まれながら打球はライトスタンドへ。「あのパワーなんで、あんなポイントで打っても入る」。練習してきた成果が出始めていることに、小久保2軍監督にも手応えがあったようだ。
今季、1軍のレギュラー候補として期待されてきたリチャードだが、悔しいシーズンを送っている。1軍と2軍を行ったり来たりし、4度も1軍の出場選手登録を抹消に。8月15日にファーム降格となると、その後は2軍暮らし。1軍では21試合に出場し、3本塁打こそ打っているものの、打率.172となっている。
課題を突きつけられて戻ってきた2軍の場だが、ここに来て小久保2軍監督も「最近は“なんじゃあの打席”っていうのがほぼなくなってきてる。それが結果にも繋がってると思う」と変化を感じ取っている。毎試合後には「小学生ぐらいの文章ですけど、小学生以下かもしれんけど、読めるんで」という、打席の振り返りを記したノートも提出させており、考える力も磨いている。
ここまで22本塁打を放ち、1996年の城島健司(現会長付き特別アドバイザー)が記録したウエスタン・リーグ記録の25本塁打まで、あと3本に迫るリチャード。14日にはその城島アドバイザーが筑後を訪れ、ゲキを飛ばしたと言う。小久保2軍監督も「城島が昨日来て『俺の記録を抜け』って言っていたから『抜いてやれ』って」。再び1軍へのチャンスを掴むため、鷹のロマン砲が少しずつ変化、進化を見せている。