オスナが深めた尊敬の思い 甲斐拓也は「一番のキャッチャー」…熱いハグをやめたワケ

ソフトバンクのオスナ(左)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンクのオスナ(左)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】

来季は“敵同士”もリスペクトは不変…「甲斐はスペシャル」

「僕が知っている中でも一番のキャッチャー」との感謝は尽きない。ファンが楽しみにしていた“歓喜の抱擁”をやめたのは、実はあっさりとした理由だった。

 巨人は17日、国内FA権を行使していた甲斐拓也捕手の獲得を発表した。周東佑京内野手と栗原陵矢内野手が「寂しいです」と口を揃え、今宮健太内野手は「今後何十年出てこない」と絶賛。その存在感の大きさを語った。ホークスに在籍して14年。「自分のキャリアでも1、2を争う世界一のキャッチャーだと思っています」。甲斐をこう評したのは、ロベルト・オスナ投手だ。

 メジャーで最多セーブのタイトルを獲得するなど、実績十分の右腕。数多くの捕手と出会ってきたが、「甲斐はスペシャルです。『どう? どう?』と、自分の意見も聞いてくるし、彼の意見も言ってくれる。コミュニケーションができて、いろんな引き出しと経験がある」と全幅の信頼を寄せていた。シーズンを終え、オスナは11月に日本を離れた。甲斐が移籍したという一報を聞けば、決断をリスペクトしながらも、寂しい思いを口にするだろう。

 オスナと甲斐。2人の印象的なシーンといえば、ゲームセット後の熱い抱擁だ。「投手のために努力をしてくれている。僕たちがうまくいった時には“その半分”というか、甲斐さんがいるから、自分たちができている。彼の仕事に感謝していることを示す意味でも(ハグを)しています」と、右腕は思いを語っていた。一方で39試合に登板し、防御率3.76と不本意な成績に終わった2024年。ハグを交わす回数は自然と少なくなっていた。どんなところに理由はあったのか。決して“自粛”しているわけではなかった。

「甲斐はもちろん、海野(隆司捕手)と組むことも多くなっていたからじゃないかな? 去年はほぼ甲斐だったじゃないですか。今年は2人と組むことがあったし、そういう状況が続いていたから。言われてみれば、確かに最近はやっていなかったですね。マイナスなことは一切ないし、『この人が嫌だから』とか、そういうものは本当にないです。ただ、『なんで』って言われると、わからないです(笑)」

 リーグ優勝した2024年。後半戦のスタートとなった一戦は、7月26日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)だった。7回2死満塁でベンチは投手交代を決断。小久保裕紀監督がマウンドに向かった。指揮官にボールを手渡した先発のカーター・スチュワート・ジュニア投手は「あまり意識していなかったです」と苦笑い。普段は倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)が声をかけに来るが、目の前の投球に集中するあまり、小久保監督が足を運んでいたことは意識の中に入ってきていなかったそうだ。

ソフトバンクのオスナ(左)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンクのオスナ(左)と甲斐拓也【写真:荒川祐史】

 外国人特有の集中力なのかもしれない。オスナに関しても、マウンドでの集中力は際立っている。バッテリーを組むのが甲斐であっても海野であっても、勝利という唯一の目標のため腕を振るだけだ。甲斐との抱擁がなくなったとはいえ、関係性が変わったわけではない。むしろ、積極的にコミュニケーションを取ってくれる正捕手のおかげで、尊敬の念はさらに深まった。

「今、僕が知っている中で甲斐は一番のキャッチャーだし、それは去年から思っていることです。海野に関してはまだ若いこともあるから、色々と学ぶことがある。そのチャンスはいっぱいあるから、彼はこれからも成長していくと思います。2人で話もしますし、海野から質問してくることもある。あくまでチームだから『俺が俺が』じゃなくて、みんなで吸収して、いろんなことを学ぶことが大事。それは海野ができていることだと思います」

 オスナと捕手の間に入ってくれたのが、高谷裕亮バッテリーコーチだった。今季8月には腰部治療のため一時渡米するなど、右腕自身も苦しんだシーズンだった。時には、打たれたことも「俺が悪い」と責任を被った。オスナは「どんな時も仕事ができている。高谷さんとキャッチャーがどういう話をしているのかわからないけど、本当によく見てくれているということが伝わってきます。高谷さんの存在は彼らにとっても、僕にとってもとても大きいです」と語った。バッテリーで作り上げる投球。来季はもっと多く、勝ちゲームの最後を締め括りたい。

「たまには選手のせいで負けてしまうゲームもあるかもしれない。勝っても負けても、いい時も悪い時も助け合うことが大事。それが選手だけじゃなくて、監督もコーチも、何かがあった時には助ける。このユニホームを着ているのなら、それに見合った仕事をすること。勝利に向かって努力すること。それにはコミュニケーションが大事ですよね」

 ホークスに入団して3年目となる2025年。敵同士になっても、心からリスペクトする甲斐拓也と、再会のハグを交わしたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)