自分自身の進路を変える明確な分岐点があった。ソフトバンクの新入団選手発表会見が9日、福岡市内の商業施設で行われた。早実から入団したドラフト4位の宇野真仁朗内野手は、目標に「トリプルスリー」を掲げた。高校通算64本塁打を放った将来有望な遊撃手。「打って走って守れる選手像が理想です」。大きな夢とともに、プロの世界に飛び込んだ。
3兄弟の末っ子として育った宇野は、次男の兄が早実の野球部でプレーしていたこともあり、入学を決めた。同校のOBと言えば、王貞治球団会長。会見前夜に行われたウエルカムパーティーで「期待しているから頑張れよ」と声をかけられた。「王さんは世界一の選手で、(自分たちにとっては)そこが模範。身が引き締まりますし、誇りを持って行動できる。そういう存在です」と背筋を伸ばした。
自身が3年の夏、西東京大会を制して甲子園出場を決めた。木製バットの使い手としても注目を集めたが、3回戦で島根・大社高に敗れた。「あまり結果を出せなかったですし、甲子園が終わった時点では、そこまでプロとかは考えていなかった」と振り返る。なぜ、気持ちは一気にプロ志望へと傾いていったのか。
「U18の日本代表に入った経験が大きかったです。ドラフト1位候補と呼ばれる選手と野球をやらせていただいて、すごく刺激をもらいました。150キロを超える投手ともたくさん対戦をした。結果自体は出なかったですけど、最後の方は対応もできていたので。そこまで苦労しないかなという感情もあって、プロ入りを決めました」
今年9月に行われた「第13回BFA U18アジア選手権」に選出され、台湾でプレーした。阪神にドラフト2位指名された今朝丸裕喜投手や、日本ハム2位の藤田琉生投手らとプレーする中で、特にインスパイアを受けた選手がいた。「代表で僕はファーストを守っていたんですけど、やっぱり(本来の守備位置は)ショートですから。巨人に1位指名された石塚裕惺(内野手)は、小学校の頃から知っているけど、その時からの成長スピードが凄まじいので。負けていられないですし、刺激をもらいました」。自信を深めると同時に、決意を固めた大会となった。
中学校の時に兄が早実でプレーする姿を見て、憧れは強くなった。「選手の自主性というか、いい意味で任せるような指導方針なんです。実力を伸ばせて甲子園も狙える高校を考えたら、自分の中でもここが一番だと思いました」。実際に練習を見学して、進学を決めた。
早実の野球部には寮がなく、全ての部員が“通い”だった。千葉出身の宇野を助けてくれたのが、母・博子さんの存在だった。「(実家から)通うのは難しかったので、母親と2人で暮らしていました。食事を作ってくれたり、洗濯をしてくれたり……。感謝してもしきれないくらいです」。野球部のグラウンドから1駅離れたところに部屋を借り、母との生活が始まった。
練習を終え、帰宅するのは午後10時前後。「自分のこと以外をしていたら日をまたいでしまって睡眠時間も少なくなってしまうので、任せていました」。母が家事を済ませておいてくれたから、野球に集中ができた。「もちろん辛いこともありましたけど、意外と楽しかったですよ」と高校での3年間を笑顔で振り返る。初任給での“親孝行”を問われると、「お金はほとんど親に預けるので、自由に使って欲しいです」。これから何度となく恩返しをしていくつもりだ。
「まずは1年間、戦い続ける体を作っていきたいです」。日の丸を経験して、志はさらに高くなった。お世話になった家族のためにも、全力でルーキーイヤーを駆け抜けていく。