周東佑京の左膝が「痛そう」でも… 信頼は「一朝一夕ではない」、日本Sに見た1年の“結晶”

ソフトバンク・周東佑京【写真:小林靖】
ソフトバンク・周東佑京【写真:小林靖】

奈良原ヘッドコーチが明かす…日本シリーズでも貫いたコミュニケーション

 スピードスターの左膝は、確かに「痛そう」だった。大きな離脱もなく、駆け抜けた今シーズン。首脳陣の目から見ても、一人の主力としての“自覚”を感じた。周東佑京内野手は現在、オフの行事に参加しつつも、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」でリハビリを重ねている。11月9日、球団は「左膝蓋靭帯に対する超音波腱剥離術」を受けたことを発表した。

 今季は123試合に出場して打率.269。初めて規定打席に到達し、115安打を放った。41盗塁は2年連続3度目のタイトル。「年間出られたこと、規定打席に立てたことはよかったと思います」と振り返っていた。

 2勝4敗に終わったDeNAとの日本シリーズ。第6戦で内野ゴロを放った際には、ファンからも「足が痛そう」との声が相次いでいた。シーズン最後の短期決戦。奈良原浩ヘッドコーチは、どのようにコミュニケーションを取っていたのか。体がどれだけ厳しい状態だとしても、託したくなるだけのものを周東は示してきた。

「(周東をスタメンから外すことは)基本、考えていなかった。シーズン中なら『どうや?』『状態、何割くらいや』って聞き方をしていたけど、シリーズの時は『大丈夫やな!?』って。もちろんどう聞いても、たとえ痛くても『いけます』って言うと思っていました。確かに『大丈夫かな?』とは思っていたけど、実際に打球が飛んだ時には動けていたから」

 選手の怪我に関する事情は当然、首脳陣も把握している。一方で、最後の頂上決戦において、「使う側」である監督やコーチも後悔はしたくない。奈良原コーチも「(小久保裕紀)監督が納得のいくメンバーというか、信頼って一朝一夕で勝ち得るものではない。1年間やってきた積み重ねの部分も非常に大きいと思うから」と、指揮官の思いを代弁した。だから日本シリーズでも、最後までグラウンドに立たせ続けた。

 周東は「ヘッドから、僕を『一人前の選手、一人前の1番バッターに育てられなかったら、こっちの責任だから』と言われた」と明かしていた。奈良原コーチも「それだけ信頼感が高いということ。彼ほど能力のある人間を主軸にできないのなら、それはこっちの能力不足とも言える。それくらい魅力のある選手です」と言う。2年連続の盗塁王、初の規定打席到達などの活躍ができたのも、シーズンを通してコミュニケーションを欠かさなかったからだ。

「彼の存在ってチームにとってかなり大きいし、いるのといないのとでは、格段に変わってくるから。膝が痛かった時もあったけど、うちの選手って頑張れちゃう人が多いのよ。でも、頑張るのと無茶をするのはまた違う。1年間を通して、最後まで1軍のフィールドに立ち続けるのは難しいこと。故障しちゃった選手ほど、頑張るのは当然わかるんですけど。逆にこっちから『佑京、今日はやめておこう』っていうケースもありました」

 時には首脳陣から“ストップ”をかけて、休養を与えていた。一進一退だった左膝の状態に、配慮を忘れなかった。「その代わりに残り20試合とかになってきたら、もう聞かない。『無理って言っても行かせるから』という話はしていた。監督も上手に使いながら、なるべく1年間フィールドに立たせるということは大事にしていました」。時期に応じて、ブレーキとアクセルを使い分けた。周東佑京というプレーヤーを、なんとしても一人前にしたかった。

 奈良原コーチにとっても、ホークスの首脳陣となって1年目でリーグ優勝を経験した。使う側の視点から見て、周東とはどんな選手なのか。

「いろんな意味で主軸というところ。何より、彼のセンターだよね。あの守備力って、あるのとないのではかなり変わる。『あの打球は佑京にしか捕れない』って監督も何度かコメントされていますけど、そういう打球が非常に多い。それがアウトになるのかヒットになるのか。シングルで止めるのかツーベースになるのかで、全然ゲーム展開は変わる。僕に限らず、チームのみんなもそう思っているでしょうけど、センターの守備は日本一でしょうね」

 ゴールデン・グラブ賞も、ベストナインも初受賞となった。数々のタイトルだけではない。何にも変えられない“信頼”という大切なものを得た、充実の2024年だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)