過去にもSNSで、どこの誰かも分からない相手から暴言を浴びせられたことが何度もあった。憶測で様々なことをネット上に書き込まれることも多い。“言われやすい立場”であることも理解し、毅然と振舞ってきた。それでも、やはりやるせない気持ちにもなった。
置かれた立場は自身が一番理解している。今季1軍で得られたチャンスは33打席。栗原陵矢内野手が開幕直後に状態が上がらなかったこともあり、1軍に呼ばれた。15試合に出場したうち、8試合は代打。1打席での“一発回答”は至難の業だった。結果的に31打数7安打、打率.226で降格した。
小久保監督には頭を下げられた。「クリ(栗原)が打ってきたから、本当にごめん。使いたいけど使えない。お前もベンチにいるキャラじゃないから。守備固めでも使えるけど、打ってほしいから2軍で試合に出ておいてくれ」。以降は1軍に昇格することはできず、2軍で5年連続本塁打王という“不名誉なタイトル”を獲得することになった。
“居場所”がないことも実感した。自らの意思でチームを選ぶことができるのは、FA権を取得するまで叶わない。それまでは与えられた場所で活躍するほかない。6月には“戦友”の野村大樹内野手が西武にトレード移籍した。昨年の現役ドラフトでは、水谷瞬外野手が日本ハムに移り、それぞれが新天地で躍動している。
「あんまり考えないようにしていましたけど、やっぱり1軍の試合を見ていたら出てくるし、見せつけられている気がして……。悔しいですよね」。自身と同じくファームでもがいてきた仲間が、他球団で花を咲かせる姿は嬉しくもあり、悔しくもあった。戦力外通告を受け、相当なショックを受けていた仲田に対してすぐに前向きな言葉をかけたのも、新天地で飛躍を遂げる仲間の姿を見てきたからだ。
リチャードも様々な可能性を意識することは当然あった。それでも、ここで叶えたい思いもある。「今も慕っていますよ。それは変わらないです」。尊敬する小久保裕紀監督の下で活躍することだ。
「(尊敬する部分は)全部じゃないですか? 監督としてもだし、人としてもすごく慕うべき人だと思う」。1軍ヘッドコーチ、2軍監督の頃から自身と真っすぐに向き合い、理解してくれた指揮官に恩返ししたい思いは強い。「その思いはあるっすよ。けど、歯がゆいです。(チーム状況を見れば)厳しいじゃないですか」。現実を冷静に見れば見るほど、夢は遠く感じられた。それは単なる諦めではない。リチャードの師匠である山川穂高内野手も「僕が見ている感じだと、どう考えても今じゃ無理なので」と弟子の置かれた厳しい現実を語っている。
現状にもがきながらも、リチャードは“恩師”との「3つの約束」を胸に、2軍で黙々とバットを振ってきた。それは小久保監督が1軍ヘッドコーチに就任した2021年に、2人で交わしたものだった。「一塁まで全力で駆け抜けること」「集合5分前には絶対に来ること」「ノートを取っておくこと」――。リチャードは「今でも続けています。できることはやっています」とキッパリ。大切な約束事を守り続けてきた。
5月25日のロッテ戦でのこと。右翼線に安打を放った際、二塁を狙えずに一塁で留まったことを「怠慢プレー」「走塁放棄」などと批判された。バットが折れて打球を見失い、スタートが遅れたリチャードは、打球の速さと自身の走力を考えて一塁で止まる判断をした。試合後、小久保監督は「あいつは(手を)抜く子じゃないので」と理解してくれていた。もちろん、時には厳しいことを言われるが、少し勘違いされやすいリチャードの“本当の姿”を指揮官は分かってくれていた。
1軍の試合を見ていても、素直に応援している自分がいる。ライバルたちが打てば打つほど、自らのチャンスはなくなる。それでも、チームの勝利や仲間の活躍を手放しに喜んでいる。それがリチャードの愛される所以なのかもしれないが、「だから、(性格的に)プロ野球選手向きじゃないんかなって」とも感じている。
「ムズいっすね。マジで今ムズいっす」。気持ちの持ちようは年々、難しくなっている。「R&D」のスタッフがいる部屋を度々訪ね、突破口を探してみたり、1人で黙々と打撃練習をしたりと、試行錯誤する姿を目にしてきた。結果が全ての世界であることは重々承知。それでもリチャードが少しでも晴れやかな気持ちでプレーできる日が来ることを願っている。